ジャンプ! ヴァン・ヘイレンは今日も誰かの背中を押している 1984年 1月9日 ヴァン・ヘイレンのアルバム「1984」がリリースされた日

ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」分厚いシンセの鮮烈イントロ!

1984年1月、3学期の授業が始まったばかりの頃、ロック好きの友人が悔しそうな顔で話しかけてきた。「発売日に買いに行ったのに、もう品切れだったよ」とのこと。何を買いに行ったのかと訊ねると、「レコードだよ。新星堂もハマヤも売り切れだった」という。どうも話がまどろっこしい。一体誰のアルバムを買いに行ったのかと訊くと、友人は得意そうな顔で「ヴァン・ヘイレン」と言った。初めて聞くバンド名だった。

数週間後、ある曲がものすごい勢いでヒットチャートを駆け上がっていることを知る。それが「ジャンプ」だった。MTV が1984年1月1日の午前零時に初オンエアしたというプロモーションビデオを、僕はほぼ一ヶ月遅れで観たことになる。

なんといっても、分厚いシンセサイザーのイントロが鮮烈だった。それが新しい年の幕開けを告げるファンファーレのように鳴り響くと、ヴォーカルのデイヴ・リー・ロスが不遜な声でこう歌い出すのだ。

すべてが破格!堂々たる振る舞いは「王者の風格」

 朝起きる
 俺を落ち込ませるものなんて何もない

デイヴは足を高く蹴り上げ、宙返りをし、殴り掛かるような素振りを見せたかと思うと、茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。まるで悪ふざけをしているみたいだった。

エディ・ヴァン・ヘイレンのギターにも驚かされた。右手でギターのフレットをタップする不思議な弾き方で、これまでに聴いたこともないような高速フレーズを紡ぎ出していた。これが有名なライトハンド奏法だと知ったのもこのときだ。

すべてが破格、というのがヴァン・ヘイレンの第一印象だった。バンドは自信に満ちあふれ、怖いもの知らずで、底抜けに明るかった。その堂々たる振る舞いには、王者の風格が漂っていた。特にデイヴのあっけらかんとした個性は強烈で、「アメリカの不良とはこういうものなのか」と感心することしきりだった。

アルバムは最高2位、マイケル・ジャクソンに阻まれた「1984」

アルバムジャケットは、赤ん坊の天使が煙草を吸っているというもので、そんな不道徳なところも、バンドのカラーと相まってやけにかっこよく思えた。

「ジャンプ」は、文字通りの大ジャンプで一気にチャートのトップまで登り詰めると、5週間その座に居座った。アルバム『1984』も驚異的なセールスを記録し、現在までにアメリカだけで1,000万枚以上を売り上げている。それでも最高位が2位なのは、マイケル・ジャクソンの『スリラー』にトップを阻まれたからだ。これはこれですごい話である。

デイヴ・リー・ロスは歌う、俺を落ち込ませるものなんて何もない!

「ジャンプ」のイントロが聴こえてくると、今でも胸が踊るのはなぜだろう? あの分厚いシンセの音が古くならないのはどうしてだろう? その答えはきっと、曲にみなぎる乱暴なまでのポジティヴさにあるのだと思う。

デイヴが「俺を落ち込ませるものなんて何もない」と歌うとき、おそらくそこに根拠などない。でも、この複雑にからみあった世界では、時として、根拠のない自信だけが生きる勇気を与えてくれたりもするのだ。

 跳んだ方がいいぜ
 さぁ、跳べよ
 跳んでみればいいじゃないか
 さぁ、跳ぶんだ

今日も世界のどこかで「ジャンプ」は流れ、誰かのことを煽っている。無責任に背中を押している。では、もし本当に跳ぶことができたらどうなるのか? それは跳んだ者にしかわからない。

※2017年11月10日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 宮井章裕

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