MEDIAN TALKS 編集部です。
2020年新年企画、外部配信開始記念企画としまして、通常の記事、コラムと並行しまして、これまでオリジナルサイトで掲載されてきたコラム記事の中から反響が大きかったものをピックアップ、スペシャルとしてお届けいたします。
今回は佐々木淳医師の阜陽視察報告の記事をお送りします。
中国の高齢者と日本の高齢者、施設入居者に関してはBMIが全然違う!
高齢者ケアが十分行き届いてないのに、なぜ中国都市部は平均寿命が日本とそう変わらないのか。ずっと疑問だったのだけど、その秘密は栄養状態にあるのかもしれない。
安徽省で高齢者ケア施設「紅葉林」を見学。
これまで中国で見た高齢者施設の中では一番しっくり来た。
一見、日本の古い特養か老人病院のような佇まい。建物も内装も古さが目立つ。しかし、入居者はみんな笑顔で暮らしていた。感じたポイントを箇条書きでまとめてみた。
●管理施設ではなく「すまい」
大部屋主体の中国の施設だが、ここには個室がある。部屋の中はそれぞれ使い慣れた家具や日用品が置かれ、生活感のある空間。家族が同室に泊まることもできる。
正面玄関のドアは大きく解放されているけど、誰も外に出て行こうとしない。入居者にとって穏やかに過ごせる環境になっている、ということなのだろう。
スタッフの子供が施設内を歩き、入居者たちからみんなの孫のように可愛がられている様子は、あおいけあを彷彿とさせる。
●高齢者に理想的な栄養状態
入居者は80代から90代が中心だが、平均BMI(Body Mass Index)はおそらく25くらい。画像を見ていただければわかるとおり、みんなコロコロしてて肌ツヤも抜群。日本の在宅高齢者の平均BMIが18.5を下回っていることを考えると、その差は歴然。
食事は食堂でみんなで食べる。一応配膳だが、品数多く、おかわり自由。みんな食事の盛り付けが多いらしく、「残さずに食べられるだけ、取りましょう」という掲示も。タンパク質や脂質もしっかり摂れていそう。
●入居者同士の「支え合い」の仕組み
ここでは、自分のできる範囲で他の入居者の生活を手助けする。決して身体的に自立していなければ「支える側」に回れない、ということはない。ベッドから動けない仲間を傍らで見守る、話相手をする、というのも立派な支え合い。これらは1時間10元のポイントが付き、貯まれば外食や買い物などに使える。もちろん、支える側には金銭以外に、役割や居場所、生きがいも発生する。素晴らしい仕組みだと思った。
地域住民のボランティアも積極的に受け入れている。
●もちろんケアはきちんと行われている
建物内には異臭はない。入居者はみな清潔感あり、身だしなみもきちんとしている。
とにかくみんなコロコロしてて元気がいい。
350床の介護施設の他、150床の療養施設を有しており、こちらでは医療依存度の高い患者、終末期の患者など、主に病院からの患者の受け入れを行なっているという。医師や看護師も配置されており、ここで看取りもしている。
特に印象に残ったのは、入居している高齢者の元気さ。しっかり食べて、日中は何らの活動をしている。それも強いられるものではなく、やりがいを持って楽しく参加できるものばかり。
日本の在宅高齢者、一番の課題はやっぱり栄養。
低体重は要介護や死亡のリスクであることが明らかになっているのに、多くの高齢者は羸痩を放置されている。慢性心不全や呼吸不全などの慢性炎症性の合併症があっても、多くのケースは基礎代謝の亢進分が考慮されていない。食事の絶対量が少ないし、食事が足りないという人も主食(糖類)を増やす以外の選択肢がない。
しっかり食べて、しっかり太っていただくだけでも、健康関連のアウトカムは相当に改善するのではないか。ぜひここの施設と高齢者の栄養とアウトカムの共同研究をしてみたいと思った。
紅葉林では、たくさんの認知症の高齢者たちと握手やハグ、非言語コミュニケーションを楽しんだ。なかなか解放してもらえず、エネルギーを吸い取られるかと思ったけど、逆にエネルギーをもらった気がした。
セロトニンがたくさん出たのかな?改めて、ごちゃまぜのパワーを体感した。
一番上の写真のおばあちゃんは97歳。
認知症があるので、非言語コミュニケーションはとても「流暢」。しかも普通に歩いている。
中国にはキラキラの高級お世話付きホームよりも、こういう施設がもっとあったほうがいいと思った。
こういう視察先を見つけてくる王 青さんの目利きは本当に素晴らしい。
(佐々木淳医師のさらなる海外報告記事は、オリジナルサイトをご覧ください)