その61 言葉を育てる優先順位

子どもを高度なバイリンガルに育てるには、言葉を育てる順序と時期を知っておくことが必要です。特に、まだ日本語が定着していない乳幼児を育てている家庭では、言葉と思考の土台となる母国語を、強固に育てる子育てを実践してください。

0〜3歳: 話し言葉を育てる時期

子どもの母国語(=母親の第一言語)を育てる入り口は、お母さんの愛情溢れる語り掛けです。お母さんが、「◯◯ちゃん、おはよう」と話し掛けると、赤ちゃんはお母さんの顔をじっと見て「アウゥ、アウゥ」と答えます。赤ちゃんは、お母さんの言葉か、別の人の言葉かが、生まれた直後から分かるのです。

これは当然のことです。赤ちゃんはおなかの中にいる時からずっとお母さんの声を聞いてきたのです。さらに言えば、お母さんの声は胎内振動となっておなかの赤ちゃん全体を刺激してきたのです。

赤ちゃんにとってお母さんの言葉ほど心地よい刺激はありません。乳幼児を育てている家庭では、お母さんの声をたくさん聞かせて赤ちゃんの安心感を高めることを意識しましょう。

海外では、母親が意識してたくさんの言葉を掛けてあげなければ母国語の発達に遅れが生じます。「子どもの発語が遅い」と心配している人は、普段よりも2倍多く言葉を掛けることを、一定期間実践してみてください。

3〜5歳: 文字を教える時期

話し言葉が育ってきた子どもには、文字チャートや、文字カードなどを使って、ひらがな・カタカナを教えてあげましょう。「2〜3歳児に文字は早いのでは?」と思うかもしれませんが、海外子育てでは、早期文字教育は必須です。というのも、子どもが現地校に通い始めると、外国語環境が強くなり、日本語が伸び止まるからです。ですから、現地校に通い始める前に日本語の文字を教え、日本語力の土台を強めておくことが必要なのです。

3〜5歳は言葉を覚える最適期であり、ほんの少しの取り組みで、驚くほど簡単に文字を覚えることができます。文字カード、文字絵本、文字ドリル、文字アプリなどを活用して、親子で遊びながら文字を教えてあげましょう。

バイリンガル子育てを成功させるポイントは、マイノリティー言語を「現地校入学までに」強固に育てることです。海外では「日本語」がマイノリティー言語ですから、まずは日本語の土台をしっかりと構築しましょう。

5〜7歳: 読書力を育てる時期

五十音を一通り覚えると、子どもは簡単な本が読めるようになります。そうなったら、短い本を与えて、子ども自身の力で本を読む練習(音読)をさせましょう。この時に大切なのが、お母さんが同じ本を読み聞かせてあげることです。

まだ活字に慣れていない子どもにとって、本を読む作業は大変な集中力を要します。同じ本でも、自分で読むのとお母さんに読んでもらうのでは、理解度に違いが生じるのです。

一人で読めるようになったからと読書を子ども任せにせず、お母さんも読み聞かせを継続してあげてください。

船津徹 (ふなつ・とおる)

TLC for Kids代表 教育コンサルタント

1990年明治大学経営学部卒業。大学卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。 しちだ式教材制作に従事。2001年ハワイ州ホノルルにてグローバル教育を行う学習塾TLC for Kidsを開設。 2015年にTLC for Kidsカリフォルニア州トーランス校開設。2017年上海校開設。 アジア諸国からの移民子弟を中心に4000名以上のバイリンガルの子どもの教育に携わる。 イエール大学、ペンシルバニア大学など米国のトップ大学への合格者を多数輩出。 著書に「すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。」(ダイヤモンド社)、「世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方」(大和書房)。

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