「教育の迎賓館」へ 大磯に横溝千鶴子記念研究所オープン 全遺産を町に寄付

篤志家の故・横溝千鶴子さんの旧邸宅を改装しオープンした「横溝千鶴子記念教育研究所」=大磯町東小磯

 神奈川県大磯町に長年住み、全遺産を町に寄付した篤志家の故・横溝千鶴子さんの旧邸宅が、「横溝千鶴子記念教育研究所」(同町東小磯)に生まれ変わってオープンした。教育や障害者福祉の分野で生涯にわたり20億円以上を寄付したという横溝さん。豪華な内装や調度品もそのままで、不登校の子どもたちへの支援の場としても活用される。生前に横溝さんとゆかりのあった関係者は「教育の迎賓館になってほしい」と期待を寄せている。

 7日にオープンした教育研究所は、元五輪選手やベストセラー作家らも住む高級住宅地の一角に立つ2階建て(延べ床面積約290平方メートル)の洋館。玄関の吹き抜けにシャンデリアが飾られ、2階には茶室も。生前、馬術が趣味で集めたという馬をかたどった美術品のコレクションも残し、展示コーナーを設置した。

 関係者によると、横溝さんは南足柄市出身で、小田原市の高校で教員を8年務めた。その後、東京都内で厨房(ちゅうぼう)設備の会社を夫婦で設立したという。

 「『人間は1人では生きられない』と言い、自分のための蓄財はせず、親族にも遺産を一切残さず、全財産を寄付に投じた」と振り返るのは生前に交流のあった元町長の三好正則さん。米寿の記念として2007年、南足柄市に10億円を寄付した。大磯町にも6億円を寄付し、知的障害者の就労支援施設などの建設費に充てられた。

 横溝さんは13年1月に93歳で亡くなった。その後、三好さんが遺言執行者となり、遺産約1億円と旧邸宅、土地が町に寄付されることになった。

 町の教育研究所は、町立小中学校教員の研修の場として1994年に設置。不登校に悩む児童生徒の適応指導教室も併設するが、町内の民間幼稚園を間借りしている状態が続いていた。横溝さんが教員育成に熱心だったこともあり、旧邸宅を活用することになった。

 施設は1階が事務室と教員研修用のスペース。2階の学習支援室「つばさ」が不登校の子どもたちの居場所となり、保護者からの相談なども受け付ける。庭の畑には今後、野菜を植える計画という。

 リビングには豪華なソファが置かれ、キッチンは横溝さんが使っていた当時のまま。鈴木義邦所長は「子どもたちがエネルギーをためる場所。学校ではなく家のような内装だからこそ、子どもたちも落ち着いて通えるだろう」と期待。三好さんも「横溝先生は生前、教育現場の現状を憂えていた。自分も思いは先生と同じ。教員が新たな教育スキルを身に付ける場となってくれれば」と語った。

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