「私のタクシーに乗ると太りますよ」 京都観光客に人気、運転手の手帳の秘密とは

洋菓子店に客を案内する岩間さん。「お客さんの好みに合わせるコンシェルジュ業だと考えている」と話す(京都市中京区)

 「私のタクシーに乗ると、副作用がありますよ。2キロ太ってしまいます」
 京都市内を中心に3600軒以上の飲食店を食べ歩いた知識と、軽妙な話術を武器に、個人タクシー「京都グルメタクシー」を営業する岩間孝志さん(51)。国内外の観光客から人気で、繁忙期は予約でほぼ埋まる。

 元はフランス料理のシェフ。といっても「計画的な人生ではなかった」。大学受験を試みるも失敗し、入学した通信制大学も中退。小学校の卒業アルバムに書いた「コックになる」との夢を見返し、20歳で調理師学校へ。在学中、フランスに半年間留学し、調理師学校を卒業後、さらに留学資金を貯めようと、23歳でタクシー運転手になった。
 運転が好きで、手軽に稼げるという軽い気持ちから始めたが、「作るより食べるほうが好き」「客との会話が楽しい」と性に合い、気付けば「天職」に。観光タクシーとして飲食店に案内するのは業務だが、「グルメ」を自称する運転手は皆無と気付き、2010年、グルメタクシーを名乗った。
 元シェフとしての人脈や、舌の肥えた常連客の口コミを頼りに飲食店情報を集め、自分の目と舌で確かめる。その上で、乗車してくれた客一人ごとの「カルテ」を作って、訪ねた店や好みを明記し、次のサービスに生かす。「客の好みに合わせるコンシェルジュ業」と自負し、えりすぐりの800軒を記載した「黒革の美食手帳」を常に持ち歩いてオーダーに備える。
 乗客には常連も多い。佐賀市の主婦森田久美子さん(56)もその一人。年1、2回は訪れ、必ず岩間さんを予約する。「ガイド本やネットで調べてくるが、予想外の店に連れて行ってくれる。いつも新発見がある」。昨年暮れに利用した際は、中京区の洋菓子店でクロワッサンをたくさん買い込んだ。
 観光範囲は、今は京都市内中心だが、今後は府内全域に広げたいと思っている。家業が和装小物製造業という縁もあり、伝統工芸の工房への案内も加え、「京都のまちの活性化を支える懸け橋になりたい」と願う。
 グルメはあくまでも手段。最終的に目指すのは、観光客が満足し、京都を好きになってくれること―。「客の喜ぶ顔が一番の喜び」と、日々、新しい店を開拓し続けている。

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