向田邦子の傑作ドラマ「阿修羅のごとく」テーマ曲も怖いが四姉妹も怖い! 1979年 1月13日 NHKドラマ「阿修羅のごとく」第1回が放送された日

インパクト十分!テーマ曲はトルコ軍楽「ジェッディン・デデン」

インパクトのあるドラマのテーマ曲は数々あるが、『阿修羅のごとく』の「ジェッディン・デデン」ほど、ぎょっとさせられた曲はない。中東の管楽器や打楽器が、独特のリズムと強烈な音色を放つこの曲は、トルコの軍楽隊が演奏する行進曲。1979年に放送された当時、小学生だった私にはひたすら恐ろしかった。

ドラマ自体も、この曲のごとく、インパクト十分。当時、ホームドラマの名手・向田邦子が描く美人四姉妹の話と聞き、『若草物語』や『細雪』を思い浮かべ、心温まる文芸作品と思って観始めた人もいたのではないか。さぞ、ぎょっとしたに違いない。

阿修羅と化した四姉妹 — 加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュン

未亡人で生け花の師匠をする長女(加藤治子)は不倫中。サラリーマン家庭の主婦である次女(八千草薫)は、夫の浮気を疑っている。図書館司書の三女(いしだあゆみ)は、まるで男っ気なし。四女(風吹ジュン)は、駆け出しのボクサーと同棲している。この男性関係で悩む四姉妹が、年老いた父の浮気やそれぞれの問題をめぐって、いがみ合いながら阿修羅と化していく。

姉妹が集まったときの遠慮のなさ。姉がいる私にはよくわかる。姉妹というのは、一緒に育ったゆえ、互いの弱点や突かれたくないところを知り尽くしているし、血縁ゆえの甘えもある。友人とはこんな言い争いはしないし、できないだろう。

四姉妹以上の阿修羅? 母親演じる大路三千緒

そして、出番はそれほど多くないのに、四姉妹以上に母親(大路三千緒)が阿修羅を印象づける。夫の背広のポケットからミニカーを見つけて襖に投げつける場面や、夫の愛人宅を遠くから見つめる場面の形相が恐ろしい。普段は、夫の血圧を心配する穏やかな母だけに、そのギャップは鮮烈だ。

10年くらい前に、興福寺の阿修羅像がブームになった。猜疑心が強く、争いを好むという戦闘の神 “阿修羅”。さぞ恐ろしい顔なのだろうと思っていたが、興福寺の阿修羅像は華奢な少年といった印象でやや拍子抜けした。

男性陣も濃いメンツ! 佐分利信、緒形拳、宇崎竜童…

ところで、このドラマ、男性陣もすごく豪華だ。浮気をする父親は、日本映画界の重鎮、佐分利信。次女の夫は、最もギラギラしてる頃の緒形拳。浮気調査をしながら三女に惚れる探偵に、ヒットメーカーとして活躍中だった宇崎竜童。かなり濃いメンツだが、このドラマでは女性陣にたじたじとなる。

パート1のラストで、「女は阿修羅だよ。勝ち目はないよ、男は」とつぶやいた緒形拳は、パート2ではいなくなり、その役は露口茂が引き継いでいる。降板理由は知らないが、もしや、ギラギラ期の緒形拳、この役に不満だったんじゃ…… と、ついつい勘ぐってしまう。

※2018年1月13日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 平マリアンヌ

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