フォルクスワーゲンで最小のSUV 「1Lエンジン」は街乗りには十分、高速道路では?

日本車も含め、激戦のコンパクトSUV市場。そこにドイツから強力な1台が参戦してきました。フォルクスワーゲン Tクロス。いったいどんな魅力を武器に戦いを展開するのでしょう。その素顔をチェックしてみます。


SUVの末弟

小さくて可愛らしいクルマには、どこか心をウキウキさせる魅力があります。持って生まれた可愛らしさ、どこでも入って行けそうなストレスフリーの運転感覚、そしてお財布に優しいエコノミー感など、どこかホッとさせる安心感がそうさせるかもしれません。

日本車の得意とするこんなコンパクトSUVですが、このクラスは世界的にも激戦を極めているマーケットです。強力な個性を持ったクルマが世界中のメーカーから登場し、小さなクルマが持っているほのぼの感が吹き飛んでしまうほどの「熾烈な販売戦」を繰り広げています。

そんな市場にフォルクスワーゲン(以下、VW)は自社で一番小さなSUV「Tクロス」を投入してきました。小さいとはいえ、中身は質実剛健が売りのVWですから、カチッとした走りとVW独特の走りに期待できます。

さっそく試乗テストです。実際に見ると、クラスとすればポロと同じなのですがサイズを比較するとポロより全長も全幅も、そして当然全高もTクロスは大きいのです。そのためもあるのですが、それほど小さく見えないのです。やはり車高が上がっていることで押し出し感が強くなっていて、大きく見えるのだと思います。

デザイン的にもフロントやリアも水平基調のデザインでワイド感が表現されているために、実寸以上の存在感を感じると思います。ただ、小さいクルマは小さく見えてくれた方が個人的には“らしくていい”のです。

水平基調の伸びやかなデザインで、実際のサイズ以上に大きく見えます

でも室内に注目点を移すと話は変わります。見た目以上に広いとか、使い勝手が良かったとか発見すると、なんかとっても得した気分になって嬉しいものです。ボディサイズの数値を見ると実際はそれほど大きくないのですが、乗り込んだ室内広々……、とまでは言いませんが、予想以上に広いと思いました。実際にこれも車高が高いSUVならではの効用で、ポロより目の位置も高くなっていて開放感を感じているからだと思います。

そしてもう一点、トランクなのですがスクエアで床もフラット。リアシートの背もたれを倒すせばかなりの広さのスペースを確保できて、SUVのような週末利用の多いクルマには助かります。

通常でも広いトランクだが、後席の背を倒すとさらに広く、段差のない床が出現

カタログデータによるとトランクの最小容量は385Lで、リアシートを倒せば、なんと3倍の1281Lまで拡大します。デッドスペースの少ない、とても使いやすい荷室で、キャンプやフィッシング、ホームセンターでの買い物などで重宝しそうです。

それにしてもいつもながらインテリアの素材感が上質で、プラスチックのぺなぺなした感じは微塵も感じはありません。確かに同クラスの国産車との比較では価格が高めで、言ってみれば高級ですが、それでも、VWはこの作り込みの良さは魅力だと思います。

ダッシュボードは縦のラインを細かく刻んだデザインでスポーティ感を演出

1LエンジンとFF

トランクのユーティリティや室内のスペースをチェックしたところで次は走りです。Tクロスに用意されたのは「1.0 TSI」というエンジンで、他の選択は日本国内ではありません。さらに前輪で駆動するFFとなっていますから、SUVに多い、4WDは本国仕様にも用意はありません。。確かに、FFやFRといった2輪駆動のSUVがどんどんシェアを拡大していることは分かります。実際に燃費も良くなりますし、車両も軽くなりますから小さいクルマならではの軽快感も出ます。

一方で4WDがもしあったら、走破性も高いので、高めの車高と相まって、少しぐらいの悪路やチョットした雪道も安定して走れるので良かったのですが、都会派SUVと考えればあまり問題も無いでしょう。

本国にある1.6Lのディーゼルターボなどがあったらとても嬉しいのですが、今のところ導入のニュースは流れてきません。

現在は116馬力の1LのエンジンとFFの組み合わせのみ

さっそく走り出してみます。最初は1Lエンジンのことを非力ではないかと心配していたのですが、この116馬力のエンジンは全体的にもう少しだけトルクが欲しいなという感覚です。FFで街乗りを楽しんで時々、中距離ドライブをという人にはそれほどの問題はないと思います。スポーティで元気というより、普通にちょうどいい感じのエンジンです。

あとは高速道路ですが、乗り心地はしなやかで安定感があり、ロングドライブでもどんどんこなせそうです。何よりもシートがかっちりしていて相変わらずいい。座った瞬間に堅さを感じるシートなのですが、上体のホールド感や座面の受け止め具合はやはりVWの上手さが光ります。楽で頼りになって、シートだけでも部屋に置いてきたいぐらいです。

堅めだが体をしっかりとサポートしてくれる良く出来たシートはロングドライブに最適

ですが時々追い越しなどで感じるわずかな物足りなさは、やはりエンジンのせいかもしれません。そんなことを考えながら走っていると今度はエンジン音が少し気になります。高速ではほとんど気にならなかったサスペンションの堅さが一般路ではちょっぴり顔を出します。すべてがほんのちょっぴり気になるのですが、購入を躊躇するようなレベルではないので、まずは試乗をしてみて下さい。

今年はRVで攻勢をかける?

さてこのTクロスが一番小さいということは、その上にもSUVがあるということです。実はVW、ライバルたちのSUVが元気だというのに、日本では大きなトゥアレグもなく、ティグアンしかなかったのです。

しかし、先日、日本の道で、Tクロスのひとつ上のクラスにある「Tロック」が公道テストをしているところを目撃しました。ちゃんと日本のナンバーを付け、何のカモフラージュもせず、堂々と走っていたのです。

つまり導入前テストが始まっている証拠なのです。何よりもTクロスの次にTロックが出てくれば、ティグアンまでのピースがひとつ埋まります。あとは一番上のトゥアレグが導入されればひとまずSUVのラインナップが揃い、攻勢が掛けられるのですが、果たしてどうなるでしょうか。

公道テストをしたあとで、結局導入されずじまい、なんてクルマ、けっこうありますから、Tクロスの売れ行き次第によってはVWの考える戦略も変化する可能性もあります。それだけにTクロスの状況が少々気になるところです。そして299.9万円からか……。見た目や室内の上質感があるから高くは、それほど感じないけど、ライバルも相当に頑張っているし、けっこう悩ましい設定だなぁ。

© 株式会社マネーフォワード