研究者も驚き。TESSが明らかにした「古代の北極星」の素性

北の方角を示す目印として馴染み深い「北極星」。現在の北極星は「ポラリス」の名で知られる「こぐま座アルファ星」ですが、エジプトのピラミッドが建設されていた時代には「トゥバン」こと「りゅう座アルファ星」が北極星の役割を担っていました。今回、数千年に渡り観測されてきた星であるトゥバンの知られざる素性が、NASAの系外惑星探査衛星「TESS」による観測によって明らかになりました。

■トゥバンは明るさが周期的に変化する「食連星」だった

床に対して傾きながらも安定して回り続けるコマを観察すると、軸の先端が円を描くように向きを変えている様子がみられます。これは「歳差運動」と呼ばれるもので、地球の自転軸もおよそ2万6000年周期で1周する歳差運動を起こしています。

歳差運動が存在するために、自転軸の延長線上にある北極星は、時代とともに変化しています。今からおよそ4700年前の北極星はポラリスではなく、地球から270光年ほど離れたところにあるトゥバン(りゅう座アルファ星)でした。トゥバンは連星であることがすでに知られていましたが、2018年に打ち上げられたTESSによる観測の結果、互いに周回し合う恒星どうしが重なり合って見えることで周期的に明るさが変化する「食連星(食変光星)」であることが初めて明らかになったのです。

トゥバンは太陽のおよそ4.3倍のサイズを持つ主星と、その半分のサイズを持つ伴星が、約51.4日ごとに互いを周回し合う連星です。TESSの観測データを分析したTimothy Bedding氏(シドニー大学)らの研究チームがまとめた論文によると、2つの恒星は地球から見たときに完全に重なり合うことはなく、明るさの変化は9%または2%(主星と伴星のどちらが手前に見えるかで異なる)に留まっています。以下の動画では、主星と伴星が周回し合う様子が映像で再現されています。

研究チームの一員であるDaniel Hey氏とともにトゥバンのさらなる研究に取り組んでいるAngela Kochoska氏(ビラノバ大学)は、「どうしてこれを見落としたのか」という疑問が真っ先に浮かんだと語ります。Kochoska氏は、トゥバンの食(天体どうしが重なり合って見える現象)による明るさの変化が開始から終了まで6時間程度しか続かないことから、これまで見逃されてきたのではないかとしています。

なお、2004年には「トゥバンの明るさがおよそ1時間ごとに変化している」とする研究結果をもとに、トゥバンの主星が短期間で脈動する未確認の「マイア型変光星(Maia variables)」ではないかとする説が登場していました。今回の研究もこの説を検証するために行われましたが、TESSの観測データからは8時間未満の周期を示す脈動の存在は確認されなかったということです。

Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (USRA)
Source: NASA
文/松村武宏

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