長渕剛の軽やかさと一本気を『太陽の家』に見る 幾度かの変遷を経て、これが最終形態か!?

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

ミュージシャン/俳優・長渕剛、20年ぶりの主演映画

長渕剛、20年ぶりの主演映画である。タイトルは『太陽の家』。演じる役は大工の棟梁だ。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

長渕の映画といえば、初主演作は『オルゴール』であり、さらに『ウォータームーン』(共に1989年)がいろんな意味で大変なことになっていた。1972年生まれの筆者は10代でこの2作を見た。

1983年のドラマ『家族ゲーム』(1983年)あたりは“フォークシンガー”であり、“気のいい兄ちゃん”だった長渕。しかし『とんぼ』(1988年)でコワモテ路線となり、それが大ヒット。前述の主演作もその時期に作られたものだ。仏頂面で独善的で、熱狂的なファンを増やしつつも好き嫌いが極端に分かれるというか、“ネタ”にされるようなことも多かったわけである。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

さらに空手を始めて、コワモテからマッチョへ。格闘家との親交もあり、トップファイターだった三崎和雄の引退試合では、リング上で歌を贈ってもいる。コワモテでマッチョな長渕には苦笑いしていた筆者だけれども、この時に後楽園ホール全体を支配したカリスマ性には「さすが」と思わざるを得なかった。

何度かの変遷を経て、いよいよ“最終形態”に近づいている?

バラエティ番組に出演することもあったここ10年ほどの長渕。テレビ雑誌の表紙にレモンを持って登場したことが話題になったりと、妙なクセは抜けて軽さを取り戻してきた感もある。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

そして今、『太陽の家』だ。大工の棟梁・川崎信吾はたまたま知り合ったシングルマザー(広末涼子)と、その息子・龍生に激しく思い入れ、龍生を「鍛えて一人前の男にしてやりたい」と言い出す。「女の子を守る強い男になれ」と教える場面もあり、「2019年になってもその価値観か……」と思ったりもするのだが、良くも悪くもそれが長渕なのだろう。スタローンばり(具体的には『ロッキーIV』そっくり)な筋トレシーンもある。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

と同時に、本作の長渕はお調子者なキャラクターでもあり、コミカルな演技も見どころの一つだ。さらに言うと唯我独尊的な部分は以前に比べると薄れ、一本気ゆえのまっすぐすぎる行動をたしなめられたり怒られたりもする。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

「半端なことすんなって言ったよね」と妻・飯島直子にビンタされるシーンもあり、ちょっと志穂美悦子の顔が頭に浮かんだりもするのであった。こうした“すべてを包み込む万能の母・妻”という幻想もまた昭和の名残り。「家族」というものへの絶対的な信奉も同様だ。長渕は昭和の人間であるからこそ、ファンの心を掴んで離さないともいえるわけだが。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

気のいい兄ちゃん、コワモテ、マッチョ、いろんな姿を見せて、今63歳。一本気でお調子者で、軽さもあり、自分の行動が周りにとっていい迷惑の可能性があることも分かってきた。『太陽の家』で見られるのは“今の長渕”であり、それは何度かの変遷を経て、いよいよ“最終形態”に近づいているようでもある。

『太陽の家』©2019映画「太陽の家」製作委員会

文・橋本宗洋

『太陽の家』は2020年1月17日(金)より全国公開

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