知っておきたいF1専門用語:無線用語編

 F1関連の様々な用語を解説する新コーナー。オフシーズンの間にマシンメカニズム、エンジン、サーキットなどなど様々な項目を解説していきます。

・カバー、リアクト、アゲンスト
前走車よりも先にピットインして新品タイヤの威力で逆転を狙うアンダーカットに対して、これを阻止するためにすぐにピットインするのが「カバー」。反応するという意味で「リアクト」とも呼ぶ。1台がピットインすると連鎖的に各車がピットインしていくことも多く「チェーンリアクション」などと呼ばれる。ポジションを争う相手の動きに対抗して、ライバルがオプションタイヤを履いたら自車はプライムを履くといったように「リバースストラテジー」で「アゲンスト」の動きを取ることもある。

・クリティカル
「重大な」「決定的な」という意味で、レースの勝敗を大きく左右する場面で使われる。レースエンジニアが「ここはクリティカルな場面だ」と言えばドライバーに檄を飛ばしているのだと理解すべし。一方で「ギリギリだ」という意味でも使われる。

・コンファーム
「確認」のことで、レースエンジニアが指示した際にドライバーに「コンファーム」を求め、ドライバーは声で返すかコンファームボタンを押す、もしくは無線ボタンをチョイ押ししてその意思を伝える。

・ステイアウト
ピットの「アウト(外側)」に「ステイ」すること、つまりコース上を走り続けること。「ピットイン」の対義語。

・ストラット
パワーユニットのモード。エンジン出力や回転数、ターボのモード、ERSの発電と放出のバランスなど個別に設定が必要なパラメーターを、予選やレース中の状況を想定して組み合わせてプリセットしたもの。「モード」「シナリオ」と呼ぶチームもある。

・ソック
『State of Charge』、つまりERSの発電・放出のバランス。

・デグ
性能低下。「デグラデーション」の略。

・デフォルト
初期値に戻すこと。マシンにはさまざまな電子的機能が搭載されているが、エラーが起きて機能しなくなった時、これを試す。

・デルタタイム
デルタというのは「差」。バーチャルセーフティカーや予選・決勝のレコノサンスラップなど、スロー走行時にダッシュボードにプラスマイナスで表示される「基準タイムとの差」のこと。ドライバーたちはこれを見ながら走行ペースを調整する。それ以外にも最高速の速度差や各タイヤコンパウンドによるタイム差など、さまざまな「デルタ」が存在する。

・ナーシング
いたわること。車体やパワーユニット、ブレーキ、タイヤをいたわって、トラブルを避け確実にフィニッシュできるようにする。

・バックオフ
スロットルペダルを戻すこと。主にペースダウンすることを意味する。

・ピットウインドウ
自分がピットインした時点で隊列のどこでコースに戻るか、自分より何秒前のクルマまでがピットインすると自分より後ろになるか、という自分の前後のピットストップ後の位置関係を表わす『幅』のこと。「後ろのXXXはピットウインドウの外だ」と言われれば、ピットインしてもそのマシンに抜かれることはないという意味。

・フェイズ
多くのチームがタイヤのデグラデーションの段階を「フェイズ」に分けて表現し、ドライバーが感じた状態を簡単にエンジニアに伝えられるようにしている。たとえば「あと3周しか保たない」と感じたら「フェイズ3」などと決めている。なかには3A、3Bなどと細かく分けているチームもある。

・プランA、B
決勝戦略のこと。各チームはロングランのデータやコンディション変化を加味して戦略を立てている。自分たちにとって理想的な戦略『プランA』だけでなく、ライバルの動向やセーフティカーなど不確定要素を勘案した『プランB』、『プランC』と無数に想定し、その場の状況によってさまざまなバリエーションを使い分けている。

・マルチファンクション
ステアリング上のボタンやロータリースイッチの数には限りがあるため、走行中に頻繁に使用するものだけを指の届く範囲に設置したスイッチに割り当て、ワンタッチでON/OFFや設定値を切り替えられるようにしているが、残りの多彩な機能はマルチファンクションと呼ばれるロータリースイッチ(たいていはステアリング前面中央付近にある)に割り当てられている。 レースエンジニアは変更したい機能と数値を「Multi XX, Position XX」といったように指示し、ドライバーはその指示に沿ってマルチファンクションスイッチを回して機能を選び、その数値を「+」「-」や「+1」「+10」ボタンを使って入力する。基本的に走行中はやりたくない操作で、あくまで緊急用。

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