『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』 妄想にとらわれた劇中人物と監督自身がダブってくる

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 テリー・ギリアムは“妄想”を愛する監督だ。それは初期の『バンデットQ』から代表作『未来世紀ブラジル』『フィッシャー・キング』、直近の『ゼロの未来』まで一貫している。そんな彼が、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』の映画化に30年にもわたってこだわり続けたのも当然だろう。

 主人公は、仕事への情熱を失ったCM監督。彼が出世作の映画『ドン・キホーテを殺した男』を撮影したスペインの村を久々に訪ねると、その撮影が原因で村人たちは変わり果てていた。ドン・キホーテを演じた老人は自分を本物の騎士だと信じ込み、ヒロイン役の無垢な少女は女優になると村を飛び出し…。老人は主人公を従者サンチョだと思い込み、彼を引き連れて冒険の旅へ。

 これまでのギリアム作品同様に、キホーテ=妄想と、CM界を牛耳る資本家のボス=現実、狂気と正気が対比をなす。そして、ギリアムがくみするのは常に妄想や狂気の側だ。しかも、度重なる主役の交代や資金破綻などによる9回もの企画頓挫をはねのけて、執念で完成にまで漕ぎ着けた(その一端が2002年のドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラ・マンチャ』で詳しく紹介されているので要チェック!)。そんなギリアムだけに、劇中のキホーテと彼自身が次第にダブってくる。キホーテは、紛れもなく彼の分身なのだ。その意味でも本作は、永遠の鬼才の集大成といっていい。★★★★☆(外山真也)

監督:テリー・ギリアム

出演:アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス

1月24日(金)から全国公開

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