室伏広治氏考案“ハンマートレ”の意味 オリ吉田正に伝える「鍛えるテクニック」

(左から)アテネ五輪金メダリストで東京医科歯科大教授の室伏広治氏とオリックス・吉田正尚【写真:荒川祐史】

吉田正が室伏氏の指導を受けるのは今年が4年目

 一見すると風変わりなトレーニングの数々に、屈強な2人の男が黙々と取り組む。24日、東京医科歯科大(東京都文京区)で公開されたオリックス・吉田正尚外野手の自主トレ。アテネ五輪金メダリストで同大教授の室伏広治氏から指導を受けるようになり、今オフで4年目を迎えた。単にケガしない体を強くするという恒常的な鍛錬からは一線を画した「テクニック」が、メニュー1つ1つに込められていた。

 ハンマー投げで世界を制した男が、“本物”のハンマーを手に取った。重さ10キロもある大型の金槌をゆっくり頭上にあげる。一気に振り下ろすかと思いきや、地面に叩きつけないよう寸止めする。「よくタイヤを叩くトレーニングは見るでしょ? これはタイヤでなく、空気を叩くんです」と室伏氏。実践した吉田正は、鬼気迫る表情で体に負荷をかけていった。

 確かに、格闘家らがハンマーでタイヤを叩くトレーニング風景は思い浮かぶ。だがその“従来型”では、首から肩にかけて広がる僧帽筋の上部しか鍛えられないという。「ただ(金槌を)振り回しているだけでは上部の筋肉ばかり大きくなる。(見た目は)強そうに見えるかもしれないですけど(笑)」と室伏氏。自身が考案したやり方だと肩甲骨の下まで広がる僧帽筋の下部も鍛えられ、より理にかなっているという。「自分のテクニックで鍛えるっていうのは、上級者のトレーニングだと僕は思っている」と力説した。

 トレーニングにも「技術」が必要――。2016年に室伏氏へ直接手紙を送って師事した吉田正が求めている核の部分でもある。「(ハンマー投げの)プレーヤーとしてやられていたのはもちろん、今は博士として研究もされていて、アドバイスをくれる。どうしても感覚でやってしまうことが多いので、分かりやすく教えてもらえるのが1番」。関節や筋肉など全身の連動を、自身のあいまいな感覚ではなく、しっかり頭で理解して体に落とし込む。アスリートと研究者の“二刀流”である室伏氏は、最適な伝道師でもある。

「室伏塾」の効果は絶大、2年連続で全試合に出場

「室伏塾」の効果は結果にも表れている。17年11月に腰椎椎間板ヘルニアの摘出手術を受けた吉田正は、18年から2年連続で全試合に出場。25本塁打以上もマークした。「結構しんどい時期もありましたが、ケアしながらやれている」と致命的な離脱はしていない。室伏氏も「体もしっかりして来ていますし、今のところ大きな問題っていうのは見当たらない」とうなずく。

 球界屈指の長距離砲と、誰もが知る鉄人がタッグを組んでもう4年目。今回は、打球の飛距離アップを目指す吉田正のリクエストで、瞬発系のトレーニングも多く取り入れている。「時間をかけてやっていくことで効果は出てくる」と室伏氏が言うように、一朝一夕で劇的な変化は起きない。ただ、金メダリストの鉄人が何よりも目を細めているのは、吉田正の姿勢。「まだまだ成長したいという向上心を持った彼の性格が素晴らしい」と言う。

「チームのAクラス」「個人タイトル獲得」と吉田正が掲げる今季の目標の中には、もちろん日の丸を背負った夢の舞台もある。オリンピアンの先輩である室伏氏は「母国開催で期待は大きいでしょうけど、多くの人を感動させることができるだけの人だと思っているので、頑張っていただきたい」とエール。吉田正も「いい報告ができるように」と決意をにじませた。技術が詰め込まれたトレーニングで揺るがぬ土台を作り、五輪のグラウンドに立ってみせる。(小西亮 / Ryo Konishi)

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