9割の主婦が、時給次第で扶養を外して働くことを選ぶ?!

パートで働く人の厚生年金加入要件を拡大する案が検討されています。今は従業員501人以上が対象ですが、段階的に従業員51人以上にまで引き下げる案です。

しかし、厚生年金に加入できるようになることを歓迎する人もいる反面、その保険料分が給与から差し引かれることを懸念する人もいます。

所得税の配偶者控除を含め、扶養枠の適用については賛否の声が入り混じっています。少子高齢化が進む中で保険の支え手(支払う側)を増やす必要性も議論されており、扶養枠自体をなくすべきだという意見もあります。

一方で、中には働きたくてもそれがかなわない人がいることも忘れてはなりません。人によって事情は異なります。誰もが納得できる制度作りは簡単ではありません。

扶養枠内に収入を抑えるメリットは、税金や保険料などが優遇されることです。では、もし仮に高い収入が得やすい環境が実現したとしたらどうなのでしょうか?しゅふJOB総研では、そんな観点で仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦”層に調査しました。


いくらなら扶養枠を外すか?

昨年、働く主婦層に「あなたは時給換算でいくら位の仕事であれば、扶養枠を外して働くことを選びますか。判断基準として近いものをお教えください」と尋ねたところ、以下の結果となりました。(n=995)

あなたは時給換算でいくらくらいの仕事であれば、扶養枠を外して働くことを選びますか。判断基準として近いものをお教えください(単一回答)

有効回答数995人

「2,000円以上でも扶養枠内に収めて働く」と回答した人が9.5%。この結果を逆から見れば、時給次第では扶養枠を外すことを選ぶ人がおよそ9割に上ることになります。

扶養枠内に収めるか否かは、金銭的なメリットが得られるか否かに大きな影響を受けると言えそうです。では、具体的に時給がいくらであれば扶養枠を外すのでしょうか?

金額について100円単位で回答してもらった結果を集計したところ、最も多かったのが「1,500円以上」で22.9%。1500円より上の金額を選んだ人と合わせると54.3%で過半数となります。

扶養枠を外す金額に地域差

ただ、時給相場は地域によって差があります。令和元年度の地域別最低賃金を見ると、最も高いのは東京で1,013円。最も低いのは青森・沖縄などの790円です。

47都道府県別だとサンプル数が少なすぎるケースが出てしまうため、先ほどのグラフを一都三県と一都三県以外で比較してみたところ以下のグラフとなりました。

扶養枠を外す時給ライン:地域間比較

東京・神奈川・埼玉・千葉の一都三県では「1,500円以上」の金額帯の比率が6割を超えました。一方、一都三県以外の地域では「1,200円以上」の金額帯の比率が6割弱となっています。

また「1,000円未満でも扶養枠を外して働く」「1,000円以上」を合わせた比率は、一都三県の9.5%に対し、一都三県以外では24.6%と全体の1/4近くに及ぶことも特徴的です。1,000円という時給は東京・神奈川では最低賃金に届きませんが、地域によっては十分高時給に相当する金額だと言えます。

時給相場を上げるという視点

しゅふJOB総研が2016年にも同様の調査を行った際、扶養枠を外すラインとして「1,500円以上」の金額帯で回答した人の比率は53.3%でした。昨年の調査とほぼ同じ結果であることから、この3年間における働く主婦層の認識は大きく変わっていないようです。

一方、最低賃金は東京都だけを見ても、2016年度:932円から2019年度:1,013円と80円上昇しています。

最低賃金の上昇につられて時給相場全体が上昇しているとすると、その分扶養枠を外す人の比率も増えている可能性があります。

実際に「あなたは働く時の希望条件として、収入上限を設定していますか」と質問した結果を2017年と2019年とで比較してみると、「収入制限は気にしない」と回答した人の比率は33.0%から43.2%へ約10ポイント上昇していました。(n=995)

収入上限の希望比較

有効回答数995人

もしこのまま時給相場が上昇し続けていけば、制度を変えなくても扶養枠を外す選択をする人が増えていく可能性があります。

鍵は賃金単価を上昇させることにある

所得税における配偶者控除や年金、健康保険など扶養枠を巡る制度改正の議論が続いています。

高度経済成長期に確立された専業主婦世帯主流の時代には有効に機能した制度も、時代の移り変わりとともにより適したものへと進化させていく必要があります。共働き世帯の方が多くなった現在、103万や130万、150万などの収入上限には弊害があることは否めません。

しかし、無理な形で制度を変えてしまうと家計にダメージを受ける人もいます。また、家庭事情などで働きたくても働けない立場の人への配慮も必要です。

時代の変化に合わせて、制度変更の議論は急務です。一方で同時に、働く環境を整えたり賃金相場を活性化させる観点からのアプローチも必要だと考えます。働き方改革の流れで進められている長時間労働の是正は、残業代の削減による収入減につながっているという指摘もあります。

それらの課題と扶養枠の弊害とを同時にクリアする上で鍵を握るのが、賃金単価の上昇です。働き方改革を本当の意味で成功させるには、絶対に外せない観点だと考えます。

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