SARS当時の値動きから考える、「新型肺炎」の株式市場への影響度

中国の湖北省武漢市で2019年12月8日に発生した新型コロナウイルスによる肺炎が、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)のように感染が広がるのではないか――。そうした懸念から、香港をはじめとするアジア株式市場は1月21日以降、大きく値を下げました。

新型肺炎による死者は80人、患者数は2,700人を超えました(1月26日時点)。これに対し、習近平指導部は政策総動員で感染拡大を封じ込める構えです。

中国の春節休暇(1月24~30日)に入る前日、政府は武漢市(人口約1,100万人)の交通遮断を決定。中国旅行者協会は1月24~25日に、国内と海外への団体旅行の中止を発表しました。さらに27日、春節休暇を2月2日まで延長することを決定し、感染の拡大を抑制していく姿勢です。


2003年はウイルス特定で株価反発

SARS発生時を振り返ると、2002年11月16日に中国南部の広東省で新型肺炎の患者が発生し、同年11月から翌2003年8月に中国を中心に患者数8,096人、うち死亡者数774人が報告されました(2003年末時点のデータ)。

医療従事者1,707人(全体の21%)が感染したため、人から人への集団発生の可能性が高いとし、古典的な「隔離と検疫」対策によって事態は収束。2003年4月16日に新型SARSコロナウイルス(SARS-CoV)が特定され、7月5日に終息宣言が出されました。

当時の株価推移を見ると、海外投資家による中国株投資のゲートウェイである香港H株や香港ハンセン株は、原因ウイルスの特定をきっかけに大きく反発しています。

2003年当時に比べて、現在の中国の経済規模や中国人旅行客による海外での消費の影響は大きくなっているため、予断を許さない状況にあるといえるでしょう。とはいえ、今回はすでに1月7日に原因ウイルスは特定されており、発生から原因ウイルス特定までの期間(1ヵ月)もSARS(約5ヵ月)に比べて短くなっています。死亡率も、SARSの10%に対して、今回は3%弱にとどまっています。

SARS発生時と同様、遅くとも気温が上がり始める4月上旬頃から新規患者の報告数が減少し始めるでしょう。さらに、中国政府は感染封じ込めに向けて、大規模な対策を講じています。3月に控える全国人民代表大会(3月5日から10日程度)を念頭に、感染拡大の収束が図られる可能性は高いとみられます。

収束後の中国の消費動向は?

こうした中、中国が消費など内需喚起策をとっていく方向は変わらないとみています。米中協議は「第1段階の合意」に達したとはいえ、中国の実質GDP(国内総生産)は2018年の前年比+6.6%から2019年の同+6.1%へ鈍化しており、輸出依存型から内需主導の成長へ舵を取っていくと思われます。

中国の内需は、可処分所得の増加につれて、従来型の「モノ消費」から、体験を重視する「コト消費」へのシフトが進んでいます。品質や安全性を重視した高額商品の購入も人気。「消費のアップグレード」策による消費の多様化やサービス消費の拡大は、今後より一層推進される見通しです。

2016年のサービス消費拡大策に続き、中国政府は2019年8月に「流通の発展加速と商業消費の促進に関する意見」を公表しています。都市部ではコンビニのスマート化やブランド化の加速、農村部では電子商取引の普及や農産物流通の拡大を目指す「インターネット+農産物流通」などを実施していく方針です。

コミュニティの生活関連施設の最適化を目指す「インターネット+コミュニティ」、新しい流通業態の発展を促す「インターネット+中古品」、夜間や休日の文化・観光・レジャー・スポーツなどの消費拡大を促す施策も盛り込まれました。輸入品の増加に備えた外国製品の消費需要喚起や、新エネ車・グリーン家電などの購入に対する金融支援も行われます。

オンライン消費は2018年から2019年にかけてやや鈍化基調にありましたが、今年は増加する見通しです。都市部(74.6%)に比べてインターネット普及率が低い農村部(38.4%)でも旺盛な需要がみられ始め、物流や決済などインフラのデジタル化が加速する動きが出ているためです。

未開拓のオンライン消費者は少なくとも1億人はいると推測されます。ネット通販や自動車、飲食、旅行、教育、保険に加え、趣味や健康、各種サービスに至るまで、消費関連企業の裾野は広く、この恩恵を受ける企業が注目されるでしょう。

<文:投資情報部 山田雪乃>

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