前作を超える恐ろしさ「阿修羅のごとく パートⅡ」挿入曲はレインボーとYMO! 1980年 1月19日 NHK 土曜ドラマ 向田邦子シリーズ「阿修羅のごとく パートⅡ」第1回が放送された日

向田邦子脚本のNHK土曜ドラマ「阿修羅のごとく パートⅡ」

1979年放送、向田邦子脚本の NHK土曜ドラマ 『阿修羅のごとく』。テーマ曲と四姉妹の怖さが印象的なこの傑作ドラマ、何度か再放送されているので、見たことのある人は多いだろう。翌80年に放送された『阿修羅のごとく パートⅡ』は、その続編。なぜかほとんど再放送されないが、パートⅠに勝るとも劣らない、見応えある作品だ。パートⅠについては、過去『向田邦子の傑作ドラマ「阿修羅のごとく」テーマ曲も怖いが四姉妹も怖い!』で書いているので、ぜひ読んでみてほしい。

見ていてヒリヒリ、女の性(さが)、嫉妬心、欲望がむきだし!

パートⅠで料亭主人との関係が、料亭女将と次女にバレた長女(加藤治子)は、引き続き不倫中。夫の浮気を疑う次女(八千草薫)はモヤモヤが晴れず、スーパーで万引き。堅物の三女(いしだあゆみ)はひかれあう男性がいるのに、未だ一歩が踏み出せず。駆け出しボクサーの糟糠の妻だった四女(風吹ジュン)は、夫がチャンピオンとなって一気に羽振りが良くなる。

ドキッとするのが、亡き母の形見分けで、春画を見つけてしまう場面だ。娘の性教育のため、かつては嫁入りのときに春画を持たせていたらしいと、納得する四姉妹。だが、地味な着物の中に隠されていた春画は、貞淑な妻を演じていた母の女としての欲望を垣間見てしまったようで、なんとも生々しい。

パートⅡはパートⅠ以上に、女の性(さが)、嫉妬心、欲望がむきだしになる描写が多く、見ていて何だかヒリヒリするのだ。

テーマ曲「ジェッディン・デデン」に加え、レインボーとYMOが挿入歌!

テーマ曲はパートⅠと同じトルコ軍楽隊の「ジェッディン・デデン」だが、それに加えて挿入曲も妙なインパクトを発揮する。

父親(佐分利信)がボヤ騒ぎを起こしたため、実家に集まった四姉妹。その夜、久しぶりに枕を並べて思い出話に興じるうち、父の愛人騒ぎの最中に急死した母の話になる。すると、そこで流れる曲は、英国のハードロックバンド、レインボーの「バビロンの城門(Gates of Babylon)」。

浮気相手宅に行った夫を待ちながら、石臼でゴロゴロとそばの実を挽いていた母。夫の愛人宅を遠くから見つめる姿を娘に見られ、そのまま逝ってしまった母。そんな母のダークサイド話に「悪魔と寝て、代償を支払え。悪魔と寝て、悪魔に連れ去られるだろう」と歌う、ロニー・ジェイムス・ディオのボーカルがかぶさる。

YMO の「テクノボリス」も忘れちゃいけない。夫が浮気をしている料亭女将と、夫の浮気を疑う次女。そんな同類相憐れむ的な2人が喫茶店で会話する場面で、突如「♪ Tokyo! Tokyo!」という例の機械的な歌声が流れ出す。

どちらも違和感がすごいのだが、それゆえに、妙に心に引っかかるのだ。

解決しないエンディング、阿修羅を抱えて生きていく四姉妹…

阿修羅となって、ぶつかり合う四姉妹の中でも、特に凄まじいのが三女と四女のバトルだ。四女の態度に激怒して、四女が注文した寿司を卓袱台から払いのける三女。堅物の三女を「女として満たされていない」と揶揄し、華やいだ新婚生活を見せつける四女。どっちもどっちなのだが、窮地に陥る四女を救うのは三女だ。

「きょうだいって変なもんね。妬み嫉みもすごく強いの。でもさ、誰かが不幸になると、やっぱりたまんない…」

三女を演じるいしだあゆみの呟きが心に残る。

全4回の『阿修羅のごとく パートⅡ』。姉妹それぞれの問題や悩みは、完全に解決とはいかないままドラマは終わる。初回放送時に見たときは、えっ、これで終わり? と思ったが、40年ぶりに見ると、そのエンディングが腑に落ちた。これからも四姉妹は、ときにいがみ合いながら、ときに助け合いながら、阿修羅を抱えて生きていくのだろう。

自分の中の阿修羅をのぞいてしまったような、そんな気持ちにさせる傑作ドラマ、パートⅠしか見ていない人も、ぜひ見てほしい。

カタリベ: 平マリアンヌ

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