朝から焼酎や「熊本あか牛」のハンバーグ、有料朝食らしい差別化戦略

ホテルの魅力を深掘りする連載、今回は朝食ブッフェにみた利用者目線、飽くなき大浴場への追求が光るビジネスホテルを紹介します。


5つのブランドで攻勢

熊本市中央区新市街という宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)の激戦区に、昨年末に開業した「レフ熊本 by ベッセルホテルズ」。全国各地でホテルを展開する株式会社ベッセルホテル開発(以下ベッセルホテルズ)の手によるもの。供給過多が叫ばれるビジネスホテル業界にあって、それも激戦区への出店ということでどのような勝算があるのか興味を惹かれ、早速取材に訪れました。

ベッセルホテルズは、レフ熊本 by ベッセルホテルズも含め北海道から沖縄まで宿泊特化型からリゾートタイプまで全国24施設を手がけており、2020年から2021年にかけてさらに7施設の開業を予定しています。一方で、巨大チェーンとなれば250店舗以上というホテル業界にあっては小規模なブランドといえるでしょう。

ベッセルホテルは「ベッセルホテル」「ベッセルイン」「ベッセルホテルカンパーナ」の3ブランドで構成されていましたが、今回の熊本は初となる「REF(レフ)」、さらに今後沖縄で「Lequ(レクー)」のブランド展開も予定されており多ブランド化が顕著となります。ゆえに筆者としては、大規模チェーンでは難しいようなブランディングの構築にも注目しています。

各地のベッセルホテルへは取材で訪れていますが、共通しているのがご当地モノをはじめとした特色ある朝食です。特にビジネスホテル業界では朝食戦争ともいえるほどサービス合戦が激化しています。無料朝食を提供するビジネスホテルでも内容を充実させており、ベッセルホテルズのような有料朝食を提供するホテルの差別化手法は課題ともいえます。

特に巨大チェーンでは、施設数が膨大なゆえに施設間の差を無くすためのクオリティの均一化というテーマがあり、店舗によって朝食のクオリティに差があるという利用者の評価もちらほら聞かれます。そのような状況にあってメニュー数や奇をてらった注目メニューなどで勝負しがちであり、設備や動線にまで細やかな気遣いのあるホテルは意外なほど少数です。特に、ビジネスホテルを中心とした宿泊特化型では、朝食会場に限りがあるところが多く、混雑時の動線などに課題が残ります。

朝食から焼酎?

今回のレフ熊本 by ベッセルホテルズの取材では、メニューのバラエティは想定していましたが、焼酎まであるのには驚きました。さらに非常に利用しやすい什器などに感心。朝食のコンセプトは「火と水の国 熊本の朝ごはん」を謳い、熊本らしさをどこまで出せるかに注力されている印象です。中でもハンバーガーは、熊本県産あか牛を用いたハンバーグを自らプレートで加熱、好みの具を入れて作るといったもの。

最も印象的だったのがブッフェボード。特に宿泊特化型のホテルでは、限定的な朝食会場スペースにしてブッフェボードのサイズも限られた寸法であることも多く、手に持ったトレイを一時的に置くようなスペースがないケースも散見します。こちらでは、開業にあたり相当な試行錯誤がなされ、ブッフェボード全体にわたりトレイを置くスペースが確保されています。

食器類はボードの下部から取り出すといったよく見るスタイル。手前から取り出されるので残った食器が奥に残され、取り出しに難儀する体験は筆者にもありますが、取材日に関していえばスタッフの気配りで常に手前に食器が出ている状態がキープされていました。

日本庭園を眺める露天風呂

ここまで朝食についてみてみましたが、レフ熊本 by ベッセルホテルズでもうひとつのご自慢が日本庭園を眺める露天風呂付きの大浴場。壺湯や木製風呂などのほか、サウナはもちろん、チラー装置で快温の水風呂など、サウナ好き、風呂好きが気になるポイントを押さえているのも嬉しいところです。中でも脱衣所に用意されたバスタオルと小タオルには驚きました。一般的なホテルをはじめ本格的な温泉旅館でも客室のタオルを持参するのが一般的という中で、タオルの準備は大浴場の真骨頂とも考える筆者としては驚きの光景でした。

このようにパブリックスペースに注力されたホテルという印象にして、3階から12階のフロアに位置する客室は多様なタイプを用意していながら、全体的にシンプルに徹しています。内装はデザイナー系にしては利便性との最大公約数へのトライが感じられ好印象。アメニティや備品の見やすさにも工夫が光ります。宿泊特化型ホテルの客室は足し算よりもセンスある引き算が肝かもしれません。


ホテル活況という中でますます新しい施設が誕生する中、利用者目線の追求がますますホテルの差別化にとって重要なポイントになっていくことでしょう。開業することが目的ではなく、そこからどこまで進化を遂げられるか。再訪した時に新たな発見に出会えるのもホテルステイの楽しみです。

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