60歳からの主張

 人は年齢を重ね、老いへと向かうとき、どんな心持ちで暮らしていけばいいのか。全国老人福祉施設協議会が募集した第16回「60歳からの主張」の作品を読みながら考えさせられた▲60歳を「第二の人生のスタート」と位置付け、高齢者を応援しようと毎年、エッセー・小論文と川柳を募集。今回は計5千を超える応募があった▲エッセーで優秀賞に選ばれた84歳の男性は、80歳を超えて都会から地方の町に移住。地域に溶け込めずにいたが、役場の公募委員となって活動する中で友人が増え、「町の一員」の実感を得ることができたという▲飲食店経営の62歳の男性は、家族の死で失意の底にあった80代の母が店の仕事を手伝うようになって元気を取り戻したことをつづり、自分が必要とされていると実感できる場所の大切さを訴えた▲平均寿命の延びを受けて、国は「生涯現役社会」の実現をうたい、70歳まで働き続けられる就労環境の整備に取り組む。高齢者にも社会保障制度の支え手になってもらおうとの狙いもそこにはある▲もはや60代での「楽隠居」なんて遠い世界のことなのかもしれない。だが働くにしろ働かないにしろ、自分の居場所、輝ける場所を見つけられるかが大切だろう。長い人生の後半が充実したものとなるのか否かの分岐点がそこにある。(久)

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