「今でも昔の恋人に会うとドキドキします」82歳のクロード・ルルーシュ監督が紡ぐあの二人のその後『男と女 人生最良の日々』

『男と女 人生最良の日々』クロード・ルルーシュ監督© Kazuko Wakayama_R

あの名曲「ダバダバダ……♪」が蘇る! カンヌ映画祭最高賞パルム・ドール、アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したクロード・ルルーシュ監督による不朽のラブストーリー『男と女』(1966年)。その20年後を描いた『男と女 II』(1986年)を経て、なんと1作目から53年ぶりに最新作『男と女 人生最良の日々』(2019年)としてスクリーンに帰ってきた。

往年のキャスト・スタッフが再集結したという本作でルルーシュ監督は、高年期における恋愛模様をいかに描いたのか? 数々の名パンチラインも飛び出した、達観と慈愛に満ちた大御所監督のインタビューをどうぞ。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

「恋をすると誰もが20歳に戻ってしまう、それが愛の力」

―『男と女』シリーズの3作目となる『男と女 人生最良の日々』を作ろうと思ったのは、何がきっかけで、いつ頃のことでしょうか?

『男と女』の50周年の時に、お祝いを行いました。その時、レストア版『男と女』の上映会をしたのですが、上映に主演のジャン=ルイとアヌーク・エーメを招いて二人に映画を観てもらおうと思ったんです。上映中、映像よりも二人の顔を見ていました。二人の楽しそうな様子、時間が経っていることを感じながらも、二人は微笑みあっている。スクリーンに映っている50年前の自分たちと、今の自分たちとの違い。二人の表情からは、今どれほど幸せな気持ちでいるのか、時間がたってしまったことを恐れてはいない、そういったことを感じ取れました。

そこで私は、本当に映画が出来るのではないかと思ったのです。すなわち愛には年齢はなく、時間の経過とはかかわりがない非時間的なものであり、何歳になっても愛することが出来るということ。そうしたものを描く作品を作ろうと思ったんです。ですから『男と女』にもう一度立ち戻って、あのラブストーリーを、さらに遠くまで突き進めていくような作品を作ろうと思いました。2016年のことです。

―最初にアヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンに『人生最良の日々』の製作を伝えたとき、どのような反応でしたか?

もちろん彼らも最初は怖がりましたが、すぐに「それはいいアイディアだ」と言ってくれました。愛についての話をより深いやり方で表現できる、ということを理解してくれたからだと思います。愛の意味を理解するためには、一生かかってしまいます。それほど愛にはたくさんの可能性がありますし、愛し方にしても、千ほどもあるのです。そして私のように、ある程度の年齢に達すると何でも言えるようになります。もう時効だから、何を言ってもかまわないのです。

そこで私は、彼らに「アンヌとジャン・ルイを子供のように撮影したい」と言いました。なぜならば、恋をすると子供に戻るからです。つまり私が見せたかったのは、恋に落ちたとき、愛しているときには、何歳であろうと20歳の時に戻ってしまうということです。それが愛の力であって、何歳になっても愛の感情自体は歳を取ることがありません。恋愛感情は若いものなのです。

『男と女 人生最良の日々』クロード・ルルーシュ監督© Kazuko Wakayama_R

―『人生最良の日々』には当時の子役たちも出演されていますが、交渉はスムーズでしたか?

『男と女』の子供たちは、この映画に再び子供役で出演することをすぐに喜んで受け入れてくれました。またこの役が出来るということに、夢中になってくれたのです。まさにこの映画の中心にあるのは、あの子供たち二人のストーリーではないかとすら思います。すなわち、再びジャン=ルイとアヌークが出会うことがなかったとしたら、子供たち二人が再会することもなかったのです。これは、何かを再び始めるという象徴にもなっています。親がしたことを子供たちが繰り返していく。このように愛が世代を超えて、世代から世代へと伝達するということ。それが『人生最良の日々』の中心にあるような気がします。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

この映画では二組のラブストーリーが描かれていて、それらが互いに繋がっていきます。愛の可能性の中心に、それがあると思います。子供たちも、再会した時にはもう55~57歳です。お互い出来上がった人生がある。けれども、何歳でも再びラブストーリーを始めることができる。恋愛感情を持ち、こうやってラブストーリーの中で生きるということは、至高の報酬ではないでしょうか。“アカデミー賞中のアカデミー賞”、“パルム・ドール中のパルム・ドール”といった感じがします。愛の素晴らしい可能性、何歳になっても恋愛感情を持てるという可能性を示しているのです。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

「本当の人生におけるヒーローとは“ラブスト―リーという冒険”に乗り出す人」

―『人生最良の日々』は、美しかった恋と人物の「老い」が鍵となっていますが、具体的なモデルはいるのでしょうか?

自分自身が、私の全作品の実験動物、モルモットだったと思っています。この映画に関しても、私は主人公とほとんど同じ歳になっています。そして、今でも昔の恋人に会うと胸がドキドキします。私はジャン=ルイやアヌークよりも少し若いですが、いわゆる第三のハーフタイム、80歳から始まる時期に入っております。ですから生涯で何人もの女性を愛し、生涯の恋人と思った女性が複数いるのですが、その人と再会した時にどんな気持ちになるのか、よくわかっています。時間が経ったことを感じますね。そして時効がやってきて、もう相手の欠点を忘れてしまって評価しなくなってしまい、完全に相手のことを許すことができ、寛大になります。このように歳を取ることには、いくかの利点があります。歳を取るからといって、悪いことばかりではないのです。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

スーパーヒーローや悪人は、アメリカ映画の中にしかいないと思います。本当の人生では、人々は全員がスーパーヒーローになったり、悪人になったりします。3秒間だけ悪人で、5秒間だけスーパーヒーローになったりするのです。恋に落ち、誰かを愛しているとき、人は美しくなります。愛が美しくするのです。そうした愛がもたらす美しさを、私は撮影したいと思いました。恋をしている瞬間の男女を撮影したいと思ったのです。

現在のヒーローとは、恋をする人ではないでしょうか。なぜならば、愛が世界で一番危険なものになってしまったから。ヒーローとは、ラブストーリーという冒険に乗り出す人。それが現在のヒーローになっていると思います。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

―1作目の『男と女』の撮影と『人生最良の日々』の撮影で、もっとも変わったところ/変わらなかったところは?

もちろん、変わっていないのは俳優たちです。あの二人は変わっていません。50年前よりも、大きな才能を持っていると言えるでしょう。なぜならこの年齢になると、なんでもできるようになるからです。50年前はお互いを誘惑することしか考えませんでしたが、この歳になると本質だけを考えます。誘惑する際には、お互いを惹きつけようといい所ばかりを見せようとします。しかし、歳を取ってしまうと残されている時間が少ないので、無駄なことを言って時間をつぶしてしまいたくない。本質的なことに突き進んでいく、つまり真理だけを語るようになるのです。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

ある年齢になると、言葉はとても重要になります。自分の人生はもう後ろにあって、経験を積んで、二十歳の時には知らなかったことを知っています。ですから本質的な、一番重要なことを話したいと思っている男性と女性を、『人生最良の日々』では撮りました。

1966年の『男と女』では、互いを魅了しようと誘惑し合っている、このストーリーが長続きするとは思っていない二人を撮りました。人生における“括弧の中”に入れたような状態を撮影するのと、大きなラブストーリーを撮影するのとでは違います。50年前の作品も、人生の中で括弧に入れられる部分でした。今回の映画では、その括弧に入れられた部分の物語が長く続く、もっとも美しいラブストーリーになったということを示したいんです。

『男と女 人生最良の日々』クロード・ルルーシュ監督© Kazuko Wakayama_R

―次回作のご予定は? もしくは、すでにご準備中でしょうか?

いま1本編集が終わりかかっているところで、2020年のはじめに公開予定です。タイトルは『La vertu des impondérables(原題)』。“予測できないものがもたらす美徳”といった意味のタイトルです。この作品は『人生最良の日々』とほぼ同時に撮影しました。この2本はほとんど繋がって撮ったようなものです。そして2020年撮影予定の50本目の作品もありますよ。

『男と女 人生最良の日々』は2020年1月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

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