早くもパリ五輪代表争い始まるセーリング 男女混合に形態変わる470級

全日本470級選手権を戦う田中美紗樹(右)(C)Enoshima 470 class Japan Championships 2019 c JUNICHI HIRAI/BULKHEAD magazine JAPAN

 セーリングの全日本470級選手権が2019年11月下旬、神奈川・江の島沖で開催された。今年7月下旬に迫った東京五輪代表は男女とも決定していたので、選手権は24年パリ五輪を目指す争いの第一歩という側面を持っていた。

 東京五輪でのメダル獲得が期待されるなど日本の有力種目である470級は、かじを持って操船するスキッパーと風に合わせて移動して艇のバランスを取るクルーの2人で戦う。これまでは男女別で行われてきたが、パリ五輪から男女がペアになって競う種目になる。早くも男女混合種目への適応を視野に入れながら、レースに臨む若い選手たちがいた。 (共同通信社=山﨑惠司)

 ▽4年後を見据える

 男子クルーと組んで3位に食い込んだ田中美紗樹(早稲田大4年)。19年には全日本学生個人選手権と全日本学生女子選手権の2冠に輝くなど、男女問わず学生の470級ではトップクラスの実力を誇る女性スキッパーだ。クルーを務めた九州大2年の佐藤拓海とはこの大会のための急造ペアだった。それでも3位に入ったのは非凡な才能ゆえだろう。

 オリンピックでの金メダル―。自信の夢について、田中は力強くそう語った。東京五輪の代表を逃した今、その目が見据えるのはパリでの金メダル獲得だ。

全日本470級選手権で3位に入った田中美紗樹(左)と佐藤拓海(C)Enoshima 470 class Japan Championships 2019 c JUNICHI HIRAI/BULKHEAD magazine JAPAN

 パリ五輪から導入される男女混合への違和感はそれほどないとする田中。18年5月にセーリングの国際統括団体ワールドセーリング(WS)が男女混合への変更を決めたときも「(驚きの)『えっ』というのはなく、『そうか』という感じだった」と振り返った。学生のレースでは男女ペアで出場することが珍しくなく、田中も大学では男子クルーと組んでいたからだ。

 とはいえ、「男女別の方が良かった」とも言う。理由を尋ねると「男子スキッパーと戦わなければならないから、競争倍率が上がるじゃないですか」と 即答した。

 当面の課題は2つ。①パリ大会をともに目指す男子クルーを見つける②五輪挑戦をサポートしてくれる企業への就職―だ。クルーはこれから探すようだが「(早大のチームメートに)身長179センチぐらいの同期がいますし」と話すなど、心当たりがあることをうかがわせた。

 日本では小柄なスキッパーと大柄なクルーという組み合わせが一般的。風速が上がると、艇の傾きを抑えるためにクルーは艇外に身を乗り出してバランスを取る。その際、背の高いクルーの方が効率的に艇の傾きを抑えられるからだ。

 田中は「日本人でいうと、スキッパーは女子がいいんじゃないですか。(男子スキッパーが)女子のクルーを探すのは大変だと思う」と指摘した。

 ▽戸惑う選手も

 全日本470級選手権と同時に、女子のペアだけで順位を争う全日本女子470選手権も開催された。優勝は、東京五輪の女子代表に決まっている吉田愛、吉岡美帆組(ベネッセ)。全日本選手権とのダブル優勝を果たした。

宇田川真乃(右)と福田桃奈は全日本470級女子選手権で2位だった(C)Enoshima 470 class Japan Championships 2019 c JUNICHI HIRAI/BULKHEAD magazine JAPAN

 全日本女子470選手権で2位に入ったのが、宇田川真乃(ヤマハ・セーリングチーム)福田桃奈(霞ケ浦高)組。21歳でスキッパーの宇田川もパリ大会を狙っているが、昨年11月下旬の時点では男女混合の470級で目指すとは言い切れなかった。「男女混合の470級か、それとも(女子種目の)49erFXか…。470級かな、とは思いますけど」。五輪出場の選択肢として2人乗り女子種目への転向も頭にあるようだ。ちなみに、49erFX級は、男子の49er級とともに五輪種目の中で屈指のスピードを誇り、「海のF1」とも称される花形種目である。

 ヤマハには男子470級に高山大智という21歳のスキッパーがいる。高山は19年8月の五輪代表選考では5位に終わり、東京五輪出場は叶わなかった。しかし、レース後の記者会見で次回五輪は男女混合の470級で目指すと明言している。

 ヤマハ・セーリングチームはパリ五輪に男女混合470級で代表を出す方針を固めている。宇田川としては、チームメートの高山と争う可能性が出てくることもあり、もう少し状況を見極めたいということかもしれない。

 470級は、日本が世界トップクラスの競技力を誇ってきた。1996年アトランタ五輪では重由美子、木下アリーシア組が2位に入り、日本セーリング界に初のメダルをもたらした。2004年アテネ五輪では関一人、轟賢二郎組が銅メダルをつかんだ。地元開催の東京では、女子の吉田・吉岡組と男子の岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)外薗潤平(JR九州)組がメダル獲得の期待を背負う。

 男女混合となるパリ大会を目指す日本国内の代表争いは状況が一変しそうだ。女子スキッパーは男子クルーを、男子スキッパーは女子クルーを探すところからスタートしなければならず、クルー獲得合戦が水面下で起きるだろう。高い競技力を誇り、日本セーリング界の看板種目だった470級で、これまでなかった男女入り乱れての代表争いが始まる。

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