『日本のフィジカルスタンダードを変える』をモットーとするいわきFC。
2017年に天皇杯でJ1の北海道コンサドーレ札幌を破り、大きな話題を呼んだ彼らは、その後も着実に前進。今年、ついにJFLの舞台へたどり着いた。
いわきFCは選手たちの能力を最大限に引き出すため、科学的なアプローチでトレーニングを行っていることで知られる。特にフィジカル面の強化が注目されることが多いが、それもしっかりとした分析があってこそのものだ。
(取材日:2019年8月28日)
普段の練習からドローンを使って映像を撮影しているいわきFC。分析に使っている主なツールとしては、「スポーツコード」や「カタパルト」がある。
スポーツコード(Hudl社)はスポーツの様々なシーンをビデオ映像のまま分類しデータベース化することで、数値データだけでは決して見えてこない、リアルな情報を基にしたゲーム分析、評価を行うことができるシステム。
世界の多くのトップチームの戦略・パフォーマンスを支えており、汎用性の高さから競技の垣根を越えて様々なスポーツで活用されている。
具体的な作業としては、映像を見ながら「シュート」や「ボール奪取」などプレーごとにコードボタンを押して記録。すると映像のタイムラインに各プレーがタグ付けされていく。
スポーツコードの便利な点は、レポート画面と映像を迅速にリンクさせられることだ。試合であれば監督とアナリストがハーフタイム直前にどのシーンを見せたいか話し合い、すぐに映像を用意して選手たちにフィードバックするといったことが可能となる。
また前述したように汎用性が高いので、チームが項目をカスタマイズし、一般的なプレーだけでなく“自分たちにとって重要なプレー”をさらに分類することもできる。
いわきFCでアナリストを務める村上佑太氏によると、他のチームではおそらく分類していないデータとして「後ろにパスをした回数」と「倒れた回数」の2つを挙げた。
特に「後ろにパスをした回数」はそれ自体が駄目というわけではもちろんないが、チームとして重視している数値だという。いわきFCのスタイル、フィロソフィーが感じられる話だ。
一方、カタパルトは、選手がシャツの下に身に着けるためその見た目から「デジタルブラジャー」と呼ばれることもあるGPSデバイス。
こちらも様々な数値を計測できるが、主な役割といえるのが「怪我の防止」と「コンディショニング」だ。
選手の負荷を見るプレーヤーロードという値が重要で、それがどれだけ溜まっているかによって、たとえばオフ明けの火曜日の練習、基準の数値を超えている選手はあまり練習をせずにリカバリ。基準を超えていない、つまり疲労の少ない選手は普段通りしっかり練習するといった形で故障率の改善につなげている。
さらにデータを見る上での特徴として、「スプリント」の数値は通常、全選手一律で一定のスピードを超えると「スプリント1本」としてカウントするのが一般的。しかし、いわきFCでは50m走のタイムを基に各選手固有のスピード値を設定。足の速さが違う中で選手それぞれのスプリント回数を計測している。
90分間止まらない、倒れない、エキサイティングな『魂の息吹くフットボール』を体現するため何が必要かを具体的に考え、裏付けとしてデータを積極的に用いているいわきFC。
ここまでやるからこそ見えてくる成果や課題は、日本サッカー界にとっても価値のあるものとなっていくはずだ。彼らの取り組みに引き続き注目していきたい。