英国は1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)、欧州連合(EU)から離脱した。1993年の発足以来、拡大を続けてきたEUにとって歴史的な転換点だ。英国はなぜ離脱の道を選んだのか。日本を含む世界経済への影響は。Q&A形式でまとめた。(共同通信=松本鉄兵)
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Q そもそもEUとは。
A 加盟国が主権の一部を移譲して構成する超国家的な組織だ。背景には、欧州の近隣国同士が長年にわたって戦争を繰り返してきたことへの反省がある。第2次大戦後、平和確立を出発点に、経済的、政治的な統合を模索してきたのだ。99年には単一通貨「ユーロ」を導入。英国を含めると28カ国が参加し、総人口は5億人を超える。人やモノが自由に行き来でき、国内総生産(GDP)は日本の3倍以上だ。
Q 英国は当初から欧州統合に一定の距離を取ってきた。
A かつて「七つの海を支配する」と称された英国には、仏独が中心に進める欧州統合に懐疑的な見方があった。主権が制限されることを嫌がり、経済分野などに限った緩やかな統合を望んでいたのだ。67年にはEUの前身となる欧州共同体(EC)が発足したが、英国が参加したのは73年になってからだ。
Q ユーロにも不参加だった。
A EUでは、加盟国のユーロ導入が原則だ。ただ英国は主権の象徴である自国通貨ポンドを手放さなかった。加盟各国が相互に出入国審査を免除する「シェンゲン協定」にも参加していない。
Q EU内で独特の立ち位置にいた英国が2016年6月、国民投票でEU離脱を選択したことには驚いた。
A 加盟国が増えるにつれて、英国など豊かな国に多くの移民や難民が押し寄せた。こうした状況に、英国内では「移民に職を奪われる」と労働者を中心に不満が高まり、反EUの機運を高めるきっかけになった。EUの共通政策で自主性が制限される上、多額の予算を分担しなければならないことへの不満もあった。
Q 国民の多くが離脱を支持したのか。
A いや。残留派は、貿易や投資など経済全般でマイナスだと訴えた。国民投票では、離脱支持と残留支持の得票率はそれぞれ51・89%と48・11%と拮抗し、国民の分断を招く結果に。離脱に際し、祝福ムードを演出したい英政府とは対照的に、国民は冷ややかだ。
Q 国民投票では世代間でも意識に差があったのか。
A 若年層ほど残留を支持し、高齢になるほど離脱を支持する傾向にあるとの調査結果もあった。
Q 国民投票以降も、英国の混迷は続いた。
A 17年3月、当時のメイ首相はEUに離脱の意思を伝え、2年間の交渉を開始した。メイ氏は6月、国民の信任を得て離脱交渉を有利に進めようと総選挙を前倒しして実施したものの、結果はまさかの敗北。英議会はその後、EUとの間でまとめた離脱条件を巡る合意案に反発し、下院で否決を繰り返した。メイ氏は辞任に追い込まれ、昨年7月にジョンソン氏が首相に就任した。同氏は、経済に混乱を招く「合意なき離脱」も辞さない姿勢で臨み、EUとの協議で10月、新たな合意案を結ぶことに成功したのだ。
Q どんな案か。
A 英国が名目上はEUの関税ルールから抜ける一方、EU加盟国アイルランドと陸続きの英領北アイルランドに限りEUルールを適用する内容だ。多くの議員の支持を集め、ジョンソン氏率いる与党は昨年12月の下院総選挙で圧勝。必要な関連法案が英議会で可決され、離脱の道筋ができたのだ。
Q 離脱前後で、英国とEUの関係は大きく変わるのか。
A いや。当面はほぼ変わらない。激変を避けるための「移行期間」が設けられるからだ。期限となる今年12月末まで、英国は、EU加盟国とほぼ同等の待遇を受ける。英国は移行期間中にEUや米、日本など各国と新たな貿易協定を結び直さなければならない。
Q なぜ新たな協定が必要なのか。
A EU加盟国間では無関税での貿易が可能だが、移行期間を過ぎた完全離脱後は、高関税が課される恐れがあるからだ。また日本とEUの間では昨年、日欧経済連携協定(EPA)が発効した。ただ日英間では適用されなくなり、関税面での優遇などがなくなってしまうのだ。英国は離脱によってEUのルールに縛られる必要がなくなる。今後の交渉では、強みのある製品やサービスを海外に送り出すなど自国の意向に沿った通商政策の実現を狙っている。
Q 残り11カ月の移行期間中に、各国と貿易協定を本当に結べるのか。
A 利害がぶつかり合う通商交渉は、締結までに何年もかかるのが常だ。EUと自由貿易協定(FTA)の締結を目指すものの、EU内では、年内に交渉を終えるのは「不可能」との見方が広がっている。移行期間は最長2年間延長できる。しかしジョンソン首相は拒否しており「合意なき離脱」のリスクは残っている。
Q 英国には多くの日系企業も進出している。
A 自動車メーカーや電機メーカーが工場を操業したり、欧州での拠点にしたりしている。EUや各国との協議次第では大きな打撃を受ける恐れがある。日系企業の中には、金融機関を含めて英国外のEUに拠点を移す動きも出ている。
Q 英離脱後のEUの将来は。
A 英国は、歴史的な経緯から米国と特別な関係を持ち、国際舞台での外交力はEUにとって大きな強みだった。EU内で独に続く経済規模を持つ英国の離脱は、EUにとって痛手であるのは間違いない。現時点で、英国に追随する動きは見られないが、EUへの不満は仏などにもあり、今後も求心力を維持できるのかが問われそうだ。