「指導者だけでなく保護者も巻き込もう」 野球少年少女の「体」を守る取り組み広がる

保護者向けセミナーも増えている【写真:広尾晃】

「ぐんま野球フェスタ2020」では指導者講習会のほか保護者向けセミナーを実施

 全国で行われる「野球肘検診」は小中学校の野球少年を「野球肘」から守るためのイベントだ。医師や理学療法士、その他のスタッフの多くはボランティアでこのイベントを開催し続けている。

 その背景には「少年野球人口の減少」がある。これまで、多くの少年野球指導者は子供たちに、大人と同様の厳しい練習を課してきた。しかし発育期の子供の骨や関節は軟らかく、傷つきやすい。このために10代前半でOCD(離断性骨軟骨炎)などの障害を負ってその後の野球人生に大きな影響が出たり、最悪の場合、野球を断念することにつながったりした。「野球をすると怪我をする」というネガティブなイメージも定着し、野球人気に悪い影響を与えていた。

「野球肘検診」は、そうした野球に関する障害を早期に発見して治療に結び付けるとともに、選手たちにリハビリテーションの仕方や体のケアなどの啓蒙活動も行ってきた。また「野球肘検診」は通常、チーム単位で、指導者が引率して来場する。そこでこの機会に小中学の野球指導者に向けたさまざまなセミナー、講習会も行われるようになった。

 2020年1月19日に行われた「ぐんま野球フェスタ2020」2日目では指導者講習会が行われた。群馬県では指導者はライセンス制になり、監督やコーチはこの指導者講習会を受講しないと、ライセンスが更新されない。そこで県内の少年野球指導者760人が、午前10時30分から午後5時までの講習に参加した。

 この「ぐんま野球フェスタ2020」では、これに並行して「お母さんに役立つスポーツ栄養の話」「野球傷害のほんとうの話」と題して、保護者向けのセミナーも行われた。従来、こうした野球フェスタなどでの講習会は、指導者が中心だった。しかし、近年は保護者向けの講習会、セミナーが増えている。

「指導者の方にも熱心に講習を聞いてくれる人はたくさんいます。それを指導に生かしてくれる監督、コーチも多いですが、同時に、あまり熱心に聞いてくれない人も中にはいます。やはり“目先の勝利”が気になって、子供の健康面や、日常生活面などには注意を払わない指導者も残念ながらいるんですね。それで、最近は、保護者の方向けのセミナーや講習会も併せて開催するようにしています」。ある「野球肘検診」の主催者はこう言って続けた。

「お母さんは、わが子のことですから、熱心に聞いてすぐに実行しようとします。そういう保護者の中には、指導者が無理な投げ込みをさせようとすると“やめてください”という人も出てくるようになりました」

 ぐんま野球フェスタの保護者向けセミナーでは、OCD(離断性骨軟骨炎)の患部のレントゲン写真や、手術の動画が紹介された。こうした画像や動画は、指導者講習会でも慶友整形外科病院慶友スポーツ医学センター長の古島弘三医師によって紹介されたが、指導者たちは手術の生々しい動画に思わず目を背ける人も多かった。

 しかし保護者向けのセミナーでは、医師が「手術の動画ですが、見ますか?」と聞くとお母さんたちが「是非見せてほしい」と声をあげていた。わが子の将来にかかわることだけに、熱意があると感じられた。

「神戸野球肘検診」では保護者向けに栄養講座が実施された

 1月26日に行われた「神戸野球肘検診」でも、保護者向けのセミナーが行われた。神戸大学大学院の医師が、野球肘の原因と予防について説明。さらに神戸女子大による栄養講座が行われた。管理栄養士やゼミ生は体を作るタンパク質やカルシウム、鉄分が多く含まれている食品をあげて、おすすめの献立を紹介していた。会場には多くの保護者が集まり、メモを取るなど熱心に聞いていた。

 今回の栄養講座を企画立案した神戸女子大学家政学部管理栄養士養成課程の田中紀子教授は、「スポーツ栄養学の最新の情報をお伝えしたいと思っています。成長期の子供に必要な栄養素の話をしました。特に鉄分は伸び盛りの子供でも不足することがあって、鉄欠乏症になることがあります。そうなると頑張ろうと思っても頑張れません。選手やお母さんの中にも、栄養学の基本をご存じない方もいらっしゃるので説明しました。しっかり聞いていただいたと思います」と話した。

 少年野球と言うと「お茶当番」など保護者の負担が問題視されるが、それとは別の次元で、我が子の健康についてはしっかり理解しておきたいところだ。「野球肘検診」などの保護者向け講習会、機会があればぜひ受講してほしい。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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