ウェクスラー式知能検査は、自分の「得意」や「不得意」、自分に合った学習方法、自分に合った仕事を知るきっかけとなる知能検査です。幼児向け・児童向け・成人向けの3つの種類があり、2歳児~90歳の人までが受検できます。今回の記事では、それぞれの知能検査の内容や結果の見方、受検するメリットについてご紹介します。ウェクスラー式知能検査の理解を深めるきっかけになれば幸いです。
ウェクスラー式知能検査とは?
ウェクスラー式知能検査は、医療・福祉・教育の分野で幅広く活用される知能検査の1つです。開発したのは、アメリカの心理学者デイヴィッド・ウェクスラーです。ウェクスラーが、1932年から主任心理学者として勤務していたベルヴュー精神病院で作成されたウェクスラー・ベルヴュー知能検査が起源となります。
知能検査の始まりと言われるビネー式知能検査との違いは、知能指数の高低を表すだけではなく、認知できる知能と領域を分析的に測定できることです。つまり、高い低いという知能全般のことではなく、どんなことが得意でどんなことが苦手なのかが項目別に分かるのです。それによって、自分の特性を知ることができます。そのため学校現場でも、その子の特性やその子に合った学習方法を知るためにウェクスラー式知能検査が活用されています。
ウェクスラー式知能検査の種類
ウェクスラー式知能検査は、幼児向けの「WPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)」、児童向けの「WISC(Wechsler Intelligence Scale for Children)」、成人向けの「WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)」と、年齢によって3つの種類に分かれています。ここでは、それぞれの適応年齢と特徴をご紹介します。
【幼児向け】WPPSI検査(ウィプシ検査)
幼児向けのWPPSI検査は、2歳6ヶ月~7歳3ヶ月に適応されます。1969年にWPPSI-Iが発売され、2017年にはWPPSI-IIIが発売されています。(ここでは、最新のWPPSI-IIIについてご紹介します)
WPPSI-IIIは、2~3歳用と4~7歳用の2つの構成になっています。2~3歳の検査内容は、3つの指標と5つの基本検査、1つの補助検査で構成されています。検査時間は40分程度です。
言語理解指標 知覚推理指標 語い総合得点 ことばの理解
知識
組み合わせ
絵の名前(補助)
一方、4~7歳の検査内容は、4つの指標と7つの基本検査、5つの補助検査で構成されています。また、5歳0ヶ月~7歳3ヶ月の子供は、児童向けのWISCを受けることもできます。検査時間は50~70分です。
言語理解指標 知覚推理指標 処理速度指標 語い総合得点 知識
単語
語の推理
理解(補助)
類似(補助)
行列推理
絵の概念
絵の完成(補助)
組み合わせ(補助)
記号探し(補助)
絵の名前
※オプション検査
参考
WPPSI™-III知能検査 | 検査詳細 | 心理検査 | 日本文化科学社
【児童向け】WISC検査(ウィスク検査)
児童向けのWISC検査は、5歳0ヶ月~16歳11ヶ月に適応されます。2019年までにWISC-Vが発売されていますが、日本語での最新版はWISC-IVとなります。(ここでは、日本語最新のWISC-IVについてご紹介します)
WISC-IVの検査内容は、4つの指標と10の基本検査、5つの補助検査で構成されています。検査時間は60~90分程度です。
言語理解指標 知覚推理指標 ワーキングメモリー指標 処理速度指標 単語
類似
理解
知識(補助)
語の推理(補助)
行列推理
絵の概念
絵の完成(補助)
語音整列
算数(補助)
記号探し
絵の抹消(補助)
WISC検査については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
WISC検査とは?検査内容や費用・結果の見方・メリットをご紹介
参考
WISC™-IV知能検査 | 検査詳細 | 心理検査 | 日本文化科学社
【成人向け】WAIS検査(ウェイス検査)
成人向けのWAIS検査は、16歳0ヶ月~90歳11ヶ月に適応されます。2019年までにWAIS-IVが発売されています。(ここでは、最新のWAIS-IVについてご紹介します)
WAIS-IVの検査内容は、4つの指標と10の基本検査、5つの補助検査で構成されています。検査時間は60~90分程度です。
言語理解指標 知覚推理指標 ワーキングメモリー指標 処理速度指標 類似
単語
知識
理解(補助)
行列推理
パズル
バランス(補助※16~69歳のみ)
絵の完成(補助)
算数
語音整列(補助※16~69歳のみ)
記号探し
絵の抹消(補助※16~69歳のみ)
WAIS検査については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
IQを測る「WAIS検査」とは?検査内容や費用・結果の見方・メリットをご紹介
参考
WAIS™-IV知能検査【新刊】 | 検査詳細 | 心理検査 | 日本文化科学社
ウェクスラー式知能検査の内容・理論
ウェクスラー式知能検査の内容は年齢によって異なりますが、重複している検査も多いです。ここでは、小中学校でも活用されている児童向けのWISC検査の内容を詳しくご紹介していきます。
検査の内容
各検査の内容は、それぞれ下記の表の通りです。これらの基本検査・補助検査を行うことで、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の知能を測定しています。
指標 基本検査
(補助検査)
(数字と仮名の組み合わせ)
参考
WAIS・WISCとは?ウェクスラー式知能検査の特徴、種類、受診方法、活用方法のまとめ|LITALICO発達ナビ
WISC™-IV知能検査 | 検査詳細 | 心理検査 | 日本文化科学社
検査結果の見方
ウェクスラー式知能検査結果は、それぞれの指標で100を平均として考えます。ポイントは、知能を表す得点の高低だけでなく、各指標(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度)のバラツキを見ることです。バラツキを見ることで、その子の得意なことや苦手なことを知るきっかけになり、適切なサポートをするためのヒントを得ることができます。
得点範囲 分類 130以上 非常に高い 120~129 高い 110~119 平均の上 90~109 平均 80~89 平均の下 70~79 低い 69以下 非常に低い
(WAIS-4(ウェクスラー成人知能検査 第4版)|心理オフィスKより筆者作成)
なお、平均前後である80~119の間に、約8割の子供がいるとされています。
ウェクスラー式知能検査を受検するメリット
ウェクスラー式知能検査を受けることで、子供・大人それぞれ3つのメリットを得ることができます。知能検査は、判定を受けることが目的ではなく、判定結果を今後の生活にどう生かすかが大切です。ですから、メリットを理解してから受検することをおすすめします!
自分が得意な分野を知ることができる
ウェクスラー式知能テストの特徴は、知能指数全体を測るだけでなく、指標ごとの知能指数を知ることができる点です。例えば、知覚推理が高ければ、目で見た情報を理解し、情報を関連付ける力が高いと分かります。小学校では、理科や社会などの図やグラフを読み取るのが得意だと考えることができるでしょう。
自分に合った学習方法を知ることができる
自分の得意なことや苦手なことが分かれば、自分に合った学習方法を考えることもできます。言葉を覚えることを例に考えると、イラストとセットで覚えた方が覚えやすい人もいれば、文字や言葉で詳しく説明された方が覚えやすい人もいます。これは、知覚推理が得意か、言語理解が得意かによると考えられます。
逆に、ワーキングメモリーが低く、忘れっぽいという人は、それを自覚することでこまめにメモを取ったり、アラートをかける習慣をつけるなど、対策をすることができます。
自分に合った仕事・職業を見つけることができる
自分が得意なこと、苦手なことが分かれば、それをもとに仕事や職業へとつなげていくこともできます。例えば、処理速度の指標が高ければ、事務系の仕事などが向いているかもしれません。言語理解の指標が高ければ、何かを書く仕事や編集する仕事が向いているかもしれません。このように、自分の得意を把握することで、それを生かせる仕事を見つけることにもつながっていきます。
ウェクスラー式知能検査を受検するには
ウェクスラー式知能検査は、医療機関(精神科など)やクリニック、大学や公立学校などの教育機関で受けることができます。検査器具と検査をする専門家が必要です。小学校や中学校で担任の先生にすすめられて受ける場合は無料ですが、個人で受ける場合は有料です。
医師のすすめによって病院で受ける場合は、保険が適用されるため1,350円で受けることができます(報告書などの作成費は別)。クリニックで受ける場合は保険が適用されないため、1万5千~2万円ほど費用がかかります。
参考
検査料(保険3 割) 報告書料(自費) WISC-Ⅳ知能検査|尾山台すくすくクリニック
まとめ
ウェクスラー式知能検査は、幼児向け・児童向け・成人向けの3種類があり、項目ごとに知能を測ることができる検査です。検査を受けることで、得意不得意を知り、知能のバラツキを把握することができます。検査結果を生かすことができれば、お子さんに合った学習方法や、適切な接し方を知ることができます。お子さんのことを客観的に知るための1つの指標として、ウェクスラー式知能検査を受検してみてはいかがでしょうか。
参考
ウェクスラー式知能検査(WAIS、WISC)|埼玉県川口市のヒロクリニック心療内科