申請書類作成の専門家である、行政書士。キャリアアップするために挑戦したいけれど、取得するのは難しいのでしょうか。当記事では、行政書士試験の難易度をデータ分析をもとに解説し、法律を取り扱うほかの6つの資格と難易度を比較をします。さらに、働きながら取りやすい資格を9つ、時代の変化とともに注目され始めた資格を9つご紹介します。
行政書士の難易度ー働きながら取るのは容易ではない
行政書士は行政書士法に基づく国家資格者で、他人の依頼を受けて官公署に提出する書類の作成を行うのが主たる業務です。近年の高度情報社会において複雑多様化するコンサルティングを含む許認可業務を請け負うことも増えているため、行政手続きの専門家として位置づけられつつあります。
社会的期待値が高い行政書士の難易度について、一般財団法人行政書士試験研究センターが公表している、行政書士試験における最近10年間の試験結果の推移を見てみましょう。6.6~15.7%と合格率に幅があるところを見ると、年によって難易度が異なる様子がうかがえます。しかし、10年間の平均合格率が10.29%と低いことから、決して簡単な試験ではないことが分かります。
参考
最近10年間における行政書士試験結果の推移|一般財団法人行政書士試験研究センター
行政書士の合格率を分析ー年代別・男女別・都道府県別
行政書士の合格率の傾向を、年代別・男女別・都道府県別に分析してみましょう。一般財団法人行政書士試験研究センターが公表している平成30年度行政書士試験実施結果を基に考えていきます。
年代別の受験者数と合格率
年代別の行政書士試験受験者数・合格者数・合格率をまとめたのが次の表です。
属性 受験者数 合格者数 合格率 10歳代 553人 56人 10.1% 20歳代 6,778人 1,112人 16.4% 30歳代 9,223人 1,483人 16.1% 40歳代 10,524人 1,307人 12.4% 50歳代 8,004人 760人 9.5% 60歳代以上 4,023人 250人 6.2% 合計 39,105人 4,968人 12.7%
(注)合格率は、合格者数を受験者数で割り、小数第2位を四捨五入しています。
(最近3年間における行政書士試験の受験者・合格者の属性|一般財団法人行政書士試験研究センターより筆者作成)
上記表より、40代の受験者数が最も多いことが分かります。ただし、40代というと中間管理職層として社内での仕事量が増える年齢層であるためか、合格率が高くないのも特徴です。
就職活動を始める前の学生や、就職したばかりの若手である20代は受験者数が少ないものの合格率が高くなっています。将来を見越して行政書士資格がキャリアアップにつながると考える、意識の高い方が受験していると考えられます。
男女別の受験者数と合格率
男女別の行政書士試験受験者数・合格者数・合格率をまとめたのが次の表です。
属性 受験者数 合格者数 合格率 男性 28,049人 3,661人 13.1% 女性 11,056人 1,307人 11.8% 合計 39,105人 4,968人 12.7%
(注)合格率は、合格者数を受験者数で割り、小数第2位を四捨五入しています。
(平成30年度行政書士試験実施結果の概要 (2019.1.30)|一般財団法人行政書士試験研究センターより筆者作成)
上記表より、圧倒的に女性より男性の方が多いことが分かります。合格率も男性の方が高く、よりキャリアアップに熱意があることがうかがえます。
都道府県別の受験者数と合格率
都道府県別の行政書士試験受験者数・合格者数・合格率は下記参考にまとめられていますので、ご覧ください。
参考
平成30年度行政書士試験/都道府県別試験結果一覧|一般財団法人行政書士試験研究センター
上記参考をもとに、受験者数と合格率のランキングを作成したのが次の2つの表です。
【行政書士試験受験者数の多い・少ない都道府県ランキング】
受験者数の多い順位 受験者数の少ない順位 順位 都道府県名 受験者数 順位 都道府県名 受験者数 1 東京都 9,122人 1 鳥取県 97人 2 大阪府 3,302人 2 高知県 157人 3 愛知県 2,625人 3 福井県 165人 4 神奈川県 2,364人 4 秋田県 171人 5 埼玉県 1,744人 5 山梨県 178人
【行政書士試験合格率の高い・低い都道府県ランキング】
合格率の高い順位 合格率の低い順位 順位 都道府県名 受験者数 順位 都道府県名 受験者数 1 東京都 15.7% 1 青森県 8.1% 2 滋賀県 14.2% 2 島根県 8.2% 3 大阪府 13.9% 3 宮崎県 8.7% 4 兵庫県 13.8% 4 徳島県 8.8% 5 埼玉県 13.5% 5 富山県 8.9%
受験者数が突出して多い東京都は、2016年に中小企業庁が公表した企業数、常用雇用者数、従業者数についても、日本で最も多い都道府県です。埼玉県は東京都のベッドタウンとも言われ東京都内の企業に勤務する人も多いことから、ランキング上位に食い込んでいると見られます。
合格率の高い都道府県は、大都会や大都会に通勤している人が多い地域という傾向から、行政書士試験をキャリアアップにつなげようとする意識が強いと考えられます。
参考
都道府県・大都市別企業数、常用雇用者数、従業者数(民営、非一次産業、2016年)|中小企業庁
行政書士の合格率が低い2つの理由
過去10年間の平均合格率が10.29%と低い理由は、受験者の問題と試験対策の問題という2つの側面が考えられます。順にご説明しましょう。
受験資格に制限がないため勉強不足で記念受験をする人がいる
行政書士試験の受験資格は次のように記載されています。
年齢、学歴、国籍等に関係なく、どなたでも受験できます。
(引用元:令和元年度行政書士試験のご案内|一般財団法人行政書士試験研究センター)
つまり受験資格に制限がなく、広く門戸が開かれているのです。年齢制限がないので、いつでも、何歳でも受験することができます。また「学歴・国籍等に関係なく」ということは、日本の法律についての下地ができていない人でも受験できるということです。
そのため、勉強が不十分なのは分かっていてもとりあえず受験するという人が一定数います。合格に対する本気度が低い受験者がいることが合格率に反映されていると考えられます。
試験対策を練らないと3つの合格基準を満たすのは難しい
行政書士は官公署に提出する書類作成の専門家ですので、法律や一般知識に精通している必要があります。そのため、行政書士の試験内容と配点は次の通りに定められています。
科目 マークシート式 記述式(1問20点) 配点 足切り基準点 5肢択一式
(1問4点)
(1問8点、空欄1つ2点)
(20点)
(8点)
(36点)
(40点)
(20点)
(8点)
(12点)
(12点)
(12点)
(8点)
(20点)
(8点)
(12点)
(20点)
(160点)
(24点)
(60点)
(28点)
(16点)
(12点)
(56点)
参考
平成30年度行政書士試験合否判定基準|一般財団法人行政書士試験研究センター
行政書士試験 資格・試験ガイド|伊藤塾
行政書士試験は絶対評価で、一定基準以上の点をとれば良いとされています。その合格基準は以下の3つと定められています。
次の要件のいずれも満たした者を合格とする。
(1) 行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、122点以上である者
(2) 行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、24点以上である者
(3) 試験全体の得点が、180点以上である者S
行政書士試験の勉強範囲は広いので、すべてを完璧にマスターすることは難しいでしょう。そのため、配点が置かれている科目をしっかりと勉強し、残りは点数の取りやすい問題を選んで得点を重ねるという試験対策を練らなければ合格は難しいと言われています。
行政書士の試験勉強対策については下記記事に詳しく書かれていますので、ご覧になってください。
https://docs.google.com/document/d/1zH8_FGsjnZZB3vGp_6BMwDQ0T3UERAlGeSEgsm1sq6E(行政書士 独学)
行政書士より難しい?独立開業可能な資格ー難易度と合格率
行政書士資格は、専業として独立開業ができる国家資格です。つまり、終身雇用の終焉が示唆されている現代において、勤めている企業を辞めたいと考えたときに「保険」となりうる資格なのです。
日本には行政書士のほかにも、独立開業が可能な資格がいろいろあります。そこで、行政書士と同様に日本の法律を扱って独立開業できる資格を6つ挙げ、公認会計士試験専門学校CPAの資格難易度ランキングを参考に、行政書士と難易度を比較してみましょう。
なお、公認会計士試験専門学校CPAによると行政書士になるために必要な勉強時間は約600時間だそうです。そのため、600時間以上の勉強時間が必要とされる資格は、行政書士よりも難易度が高いと言えます。また、必要な勉強時間が多ければ多いほどその難易度が上がると考えて良いでしょう。
参考
資格難易度ランキング!勉強時間&合格率から考察する!|CPA
弁護士~法律業務全般の専門家
弁護士は最も難易度の高い国家資格とされ、合格すると法律家として法律業務範囲の制限なく業務を行うことができます。ほかの法律に係わる資格は、弁護士が行き届かない法律分野を補完する意義が強いため、弁護士は日本の中で最も難しい資格と言えます。
合格率 予備試験3%法科大学院40% 勉強時間 6,000時間 難易度 最も難しい 仕事概要 弁護士は、「基本的人権を擁護(ようご)し、社会正義を実現すること」を使命としていて、法律の専門家として、人々の自由、財産、健康などの権利を守るとともに、不正が行われることのないように、社会を見守り、みんなが安心して暮らせる社会になるよう仕事をしています。</引用元>(引用元:弁護士はどんな仕事をしているの?|日弁連子どもページ)
弁理士~知的財産分野の専門家
弁理士は、知的財産分野の権利を特許庁に出願する手続きを代理で行う専門家です。行政書士とは申請手続きの代理業務という点で共通していますが、取り扱う分野がまったく異なります。しかし、行政書士資格があると、弁理士試験の論文式が免除になることから、行政書士のステップアップとして考えられる資格です。
弁理士試験は短答式・論文式・口述の3つの試験をすべて合格しなければならないため、行政書士試験の試験内容と比べるとより難易度が高いと言えます。
合格率 7% 勉強時間 3,000時間 難易度 超難関 仕事概要 <引用>特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を取得したい方のために、代理して特許庁への手続きを行うのが弁理士の主な仕事です。また、知的財産の専門家として、知的財産権の取得についての相談をはじめ、自社製品を模倣されたときの対策、他社の権利を侵害していないか等の相談まで、知的財産全般について相談を受けて助言、コンサルティングを行うのも弁理士の仕事です。
(引用元:弁理士とは|日本弁理士会)
参考
行政書士と弁理士の違い|行政書士になる!
公認会計士~財務諸表監査の専門家
公認会計士は、大企業を主たる相手とし、財務諸表の監査を独占業務として行える会計の専門家です。公認会計士として登録すると、試験を受けなくても税理士や行政書士として登録できる点から、税理士や行政書士よりも難易度の高い試験と言えます。
合格率 10% 勉強時間 3,000時間 難易度 超難関 仕事概要 公認会計士は、開業登録をしたのちに監査・会計のスペシャリストとして、独占業務である「監査」を行うほか、「会計」、「税務」、「コンサルティング」を行っている公認会計士もいます。(引用元:公認会計士の仕事内容|日本公認会計士協会)
参考
公認会計士と税理士の違いを「48項目」で徹底比較!|資格の学校TAC
税理士~税務全般の専門家
税理士は、中小企業や個人を主たる相手として税務処理・相談を行う税務の専門家です。税理士として登録すると試験を受けなくても行政書士としての登録が可能になることから、行政書士よりも難易度の高い試験と言えます。
合格率 10% 勉強時間 2,500時間 難易度 超難関 仕事概要 税務代理税務書類の作成税務相談e-Taxの代理送信会計業務税務訴訟における補佐人会社の計算関係書類を作成する会計参与 等
参考
税理士とは|日本税理士連合会
司法書士~登記・供託や限定的な法律業務を行う専門家
司法書士と弁護士の違いは、取り扱える案件の相談・交渉・和解・代理を行う範囲が、少額・簡易・定型的なものに限られる点です。そのため弁護士と比べると難易度は下がります。
しかし行政書士と比べると試験範囲が広く、取り扱える業務も広範囲にわたります。一部法律業務も任されるため、行政書士よりも難しい試験と言えます。
合格率 3% 勉強時間 3,000時間 難易度 超難関 仕事概要 司法書士法第3条や司法書士法施行規則第31条に規定されていますが、およそ下記のようになります。登記又は供託手続の代理(地方)法務局に提出する書類の作成(地方)法務局長に対する登記、供託の審査請求手続の代理裁判所または検察庁に提出する書類の作成、(地方)法務局に対する筆界特定手続書類の作成上記1~4に関する相談法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事調停、仲裁事件、裁判外和解等の代理及びこれらに関する相談対象土地の価格が5600万円以下の筆界特定手続の代理及びこれに関する相談家庭裁判所から選任される成年後見人、不在者財産管理人、破産管財人などの業務(引用元:司法書士の業務|日本司法書士会連合会)
参考
弁護士と司法書士の違い|八下田法律事務所
行政書士と司法書士、混同されがちな両資格の違いは?|スタディング行政書士講座
社会保険労務士~労働及び社会保険の専門家
社会保険労務士は、企業の労働及び社会保険の専門家なので行政書士の取り扱う業務範囲とはまったく異なります。そのため、資格の難易度を比較されることはあまりありませんが、社会保険労務士は受験資格が限定されていたり、資格取得までに時間がかかることから、行政書士よりも取得が難しいとされています。
合格率 7% 勉強時間 1,000時間 難易度 難関 仕事概要 企業の成長には、お金、モノ、人材が必要とされておりますが、社労士はその中でも人材に関する専門家であり、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を目的として、業務を行っております。社労士は、企業における採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」に応じるなど、業務の内容は広範囲にわたります。(引用元:社労士とは|全国社会保険労務士会連合会)
参考
受験資格の比較|行政書士VS社会保険労務士
社会保険労務士と行政書士の比較|キャリアガーデン
資格は武器になる!働きながらキャリアアップを目指そう
資格取得は、個人の価値を高める手段の一つです。リストラ時代とされ企業に頼り切った生活を送るのが危険な現代において、働きながらでも常にキャリアアップを目指すことが生き抜く上では必要です。
そういったキャリアアップの意味合いから行政書士資格の取得を目指す人は多いですが、短期間で簡単に取れる資格ではないため、働きながら勉強するのが難しい方もいらっしゃるでしょう。
そこで、働きながらでもキャリアアップを目指せる資格をいくつかご紹介しましょう。また、時代の変化とともに注目されるようになった将来性の高い資格も併せてご紹介します。
働きながら取れる!キャリアアップにつながりやすい資格
働きながら資格勉強をすることを前提に、次の3条件を満たす資格を選ぶことにします。
1. 資格取得までに必要な勉強時間が長過ぎず、試験の難易度も高過ぎない。
2. 学校に通わなくても取れる。
3. 資格取得に、実務経験が必須ではない。
上記3条件のもと、おすすめするのは次の資格です。
日商簿記検定TOEIC®TOEFL®マイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)ファイナンシャル・プランナー(FP)技能検定証券アナリスト管理業務主任者宅地建物取引士ビジネス実務法務検定試験® 等
将来性がある!時代の流れとともに注目されている資格
グローバル化による貿易拡大、知的財産の管理、雇用の多様化など、さまざまな時代の流れがあり、また時代の変化とともに求められる資格も変化します。そこで、将来性があると考えられる資格の一部をご紹介しましょう。
知的財産管理技能検定通関士試験貿易実務検定®個人情報保護士認定試験ビジネスコンプライアンス検定ビジネス著作権検定海事代理士試験マイナンバー実務検定CAD利用者技術者試験 等
まとめ
行政書士の資格は、弁護士・司法書士・社会保険労務士などに比べると難易度が低いものの、働きながら取得するのは並大抵の努力では難しいでしょう。しかし、合格すれば企業に頼らずとも独立開業することができ、努力に見合ったキャリアを積むことが可能です。
重要科目から勉強を開始し、できるだけ隙間時間を利用しながら勉強量を増やし、ぜひ合格を勝ち取ってください。
参考
行政書士とは?|日本行政書士会連合会
行政書士を目指す人はどんな人?受験者データを読み解く|スタディング行政書士講座
令和元年度行政書士試験のご案内|一般財団法人行政書士試験研究センター
行政書士の試験難易度が知りたい! 合格基準や必要な勉強時間の目安とは?(2019.4.26)|Study Walker
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行政書士の難易度をほかの資格と比較してみよう|フォートサイト
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