かつて愛した人は今……53年を経てあの名作がオリジナルキャストで蘇る『男と女 人生最良の日々』

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

名作『男と女』の52年後をオリジナルキャストで描いた奇跡の続編

『男と女 人生最良の日々』(2019年)は、『男と女』(1966年)のアンヌとジャン・ルイの52年後を、前作そのままのキャストで描いた続編である。『男と女』といえば、1966年の公開以来、「あこがれのフランス」イメージの源として社会に多大なる影響を与えてきた映画だ。公開時に中学3年生だった高橋幸宏(YMO)は、この作品に心奪われ、劇場に通って18回観たと語っている。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

どんな映画だったのか復習しておこう。アンヌ(アヌーク・エーメ)は、娘を寄宿学校に預けて映画のスクリプト係として働いている女性。スタントマンの夫を亡くしたばかりだ。ジャン・ルイ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、レーシング・ドライバーとして危険で華やかな世界に生きている男性。幼い息子を抱えたシングルファーザーだ。

子どもの送り迎えをきっかけに出会ったふたりの恋を彩るのは、フランシス・レイとピエール・バルーによる洒脱にして流麗な音楽。「ダバダバダ ダバダバダ~♪」のスキャットが印象的なテーマ曲も、劇中歌のボサノヴァも、映画とは離れてさかんに広告やBGMに使用されてきた。それと知らずに耳にしたことがある人もたくさんいるだろう。

長寿の秘訣は恋心? キャストも監督も傘寿(80歳)超え!

今回の続編が滅多にないプロジェクトであることを伝えるうえで重要なので書いておくが、アヌーク・エーメは1932年生まれ。日本の女優で言うと八千草薫のひとつ下、草笛光子のひとつ上になる。トランティニャンは1930年生まれ。クロード・ルルーシュ監督は1937年生まれで現在82歳だ。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

かつてハンサムなプレイボーイだったジャン・ルイは、老いによって記憶力を失いつつあり、施設での生活に退屈している。ある日、そんな彼のもとを、現在はノルマンディーで小さな店を経営しているアンヌが訪れる。父に会ってほしいと、ジャン・ルイの息子に頼まれたのだ。しかしジャン・ルイには、目の前のアンヌが思い出の中の美しい恋人と同じ人物だとわからない。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

バブルが生んだ幻の2作目を経て「あこがれのフランス」が蘇る

実は80年代にも、アンヌとジャン・ルイを主人公にした『男と女 II』(1986年)が撮られている。日本での公開は1987年。映画プロデューサーになったアンヌが、かつての自分たちの恋を映画化しようと思い立ってジャン・ルイと再会するのだが、殺人事件が絡んできたり、砂漠でとんでもない目に遭ったり、あまりにテキトーすぎて「80年代の狂気」を感じる怪作だった(日本がバブル景気に浮かれていたあの時代、いわゆる西側諸国は全体的にちょっとおかしなことになっていたと個人的には思っている)。

それに比べると、今回の『人生最良の日々』はだいぶ落ち着いた感触で、老いたふたりの今だからこその魅力が引き出されているように思う。皮膚には皺が刻まれ、肉は重力に従い、肌つやも失われているけれど、やっぱり何十年にもわたって大衆の視線を受け止めてきた大スターは違うな、と納得させられる顔だ。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

本作はわずか2週間足らずで撮影されたそうだ。このスケジュール上の制限が、結果として好ましい軽やかさに結びついたのではないか(『II』は軽やかでなく浮ついていた)。まるで魔法のような60年代の輝きは遠くなっても、なにげない会話にも当たり前のように歌と詩が入ってくるあたり、やっぱり「あこがれのフランス」なのだった。

『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 – Davis Films – France 2 Cinéma

文:野中モモ

『男と女 人生最良の日々』は2020年1月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

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