2019年度第1-3四半期(4~12月)「東証1部・2部上場企業不動産売却」調査

 2019年度第1-3四半期(4~12月)に適時開示で、国内不動産の売却を公表した東証1部、同2部上場企業は37社だった。1993年度の調査開始以来、最少だった2011年度(50社)を下回るペースで推移し、2019年度は過去最少となる可能性が出てきた。
 業績が好調で売却損が発生する不動産売却を抑えているほか、不動産価格が高止まりしていることから、不動産を売却した上場企業の減少につながっているようだ。
 売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは8社で、前年同期(2018年4~12月)の4社から2倍増と、売却土地の大型化が進んでいる。2019年度は、遊休地より社屋や工場、ホテルなどの事業拠点の物件を手放すケースが増えた。譲渡損益を公表した36社のうち、不動産地価の上昇を背景に、譲渡益を計上したのは33社(構成比91.6%)と9割以上に達しているのが特徴だ。
 譲渡価額のトップは、経営再建中のレオパレス21(東証1部)で305億円だった。
 上場企業の不動産売却から資産効率化や財務改善、経営不振の補填など、企業の戦略が見えてくる。国内外で不透明感が漂うなか、東京五輪・パラリンピック後の動向が注目される。

公表売却土地総面積、公表34社で458万平方メートル

 2019年度第1-3四半期(4~12月)の売却土地総面積は、公表した34社合計で458万5,712平方メートルだった。単純比較で前年同期(公表29社合計:24万7,968平方メートル)より約18.5倍も増加した。売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは8社(前年同期4社)で、前年同期より大型案件も増加している。

 

東証1部、2部上場企業不動産売却企業数の推移

公表売却土地面積トップはオークワ

 公表売却土地面積トップは、和歌山県を中心に近畿、中部でスーパーマーケットを展開するオークワ(東証1部)の422万5,803平方メートルだった。同社会長の大桑堉嗣氏からの資産取得の申し出に対し、資産の圧縮、資産効率化の向上のため、投資不動産(山林)を売却。
 2位はタービン、航空、造船を手がける三菱重工業(東証1部)の17万3,797平方メートル。経営資源の有効活用と財務体質の強化を目的に、岩塚工場として利用中の土地を信託設定し、信託受益権を譲渡した。3位は化粧品、日用品、一般医薬品卸のPALTAC(東証1部)が2万4,960平方メートル。経営資源の効率化に向け、物流拠点の一つ、「RDC東京」を売却した。

譲渡価額総額、公表15社合計で636億円

 譲渡価額の総額は、公表した15社合計で636億5,900万円(見込み額を含む)だった。トップは、経営資源の効率活用と財務体質の強化のため、「ホテルレオパレス札幌」などのホテル、賃貸用レジデンス、オフィスを売却したレオパレス21(東証1部)で、譲渡価格は305億円に上る。次いで、タカラレーベン(東証1部)が発電施設の売却で138億5,800万円(関連会社保有分を含む)。自動車関連情報サービスなどのプロトコーポレーション(東証1部)の38億2,300万円(関連子会社分を含む)が続く。譲渡価額100億円以上は2社(前年同期1社)。

譲渡損益は公表36社合計で1,051億円

 譲渡損益の総額は、公表した36社合計で1,051億3,900万円(見込み額を含む)だった。内訳は、譲渡益計上が前年同期同数の33社で合計1,080億7,400万円(前年同期691億8,100万円)。
 譲渡益トップは、三菱重工業の300億円。次いで、サトーホールディングス(東証1部)が115億円、日本郵船(東証1部)が95億円、PALTACが94億円と続く。一方、譲渡損の公表は3社(前年同期1社)で、譲渡損の合計は29億3,500万円(前年同期3,300万円)だった。

業種別は小売業、卸売業、情報・通信、サービス業の各4社

 業種別では、最多が小売業、卸売業、情報・通信、サービス業で各4社。次いで、機械、ガラス・土石製品、繊維製品、不動産の各3社だった。
 業種別の売却土地面積は、小売業が424万400平方メートルでトップ。企業別の売却土地面積トップのオークワが牽引した。続いて、機械18万2,780平方メートル、卸売業5万3,647平方メートル、ガラス・土石製品1万8,809平方メートルの順だった。

 2019年度の上場企業の不動産売却は、19年12月末で37社にとどまった。過去最少のペースだが、売却不動産は大型化し、事業に直結する本社や支社、工場などの売却が目立った。特に、経営再建や資産の効率化など、財務内容の強化を進めている企業が際立った。
 ただ、不動産価格や建築費用の高止まりで、好立地以外の不動産売却は進んでいない。2019年の企業倒産が11年ぶりに前年を上回るなど、景気の先行きは不透明感を払しょくできない。
 不動産を売却した37社のうち、直近の本決算で経常利益が赤字だった企業は11社(構成比29.7%)で全体の3割に迫る。今後、資産の効率化だけでなく、手元資金や資金繰りのための不動産売却に踏み切る上場企業が増える可能性も出てきた。

© 株式会社東京商工リサーチ