戦術マスター・水谷隼、大逆転勝利 台湾の天才下した戦術転換<ドイツオープン>

写真:水谷隼/提供:AFP/アフロ

白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。

ドイツオープン2回戦にて、水谷隼vs林昀儒(リンインジュ・チャイニーズタイペイ)という対戦カードが実現した。この試合で水谷は0-3と追い詰められるも、そこから4ゲームを連取し、逆転勝利を収めている。どのような戦術で水谷は勝利を収めたのか、解説していく。

写真:水谷隼(木下グループ)/提供:picture alliance/アフロ

熾烈な五輪代表選考レースの末、4大会連続での五輪男子シングルス出場はならなかったものの、団体戦の3番手として選出された水谷。五輪3大会連続出場の経験を生かして、日本チームを引っ張ってくれることが期待される。東京五輪団体戦での第2シード以上獲得に向けて、ここからギアを上げていくと予想される。

写真:林昀儒(チャイニーズタイペイ)/提供:ittfworld

対する林昀儒は、弱冠17歳(大会当時)ながら、2019年7月に行われたT2ダイヤモンドマレーシア大会にて馬龍(マロン)、樊振東(ファンジェンドン)といった中国の主力選手を破って優勝。最新の世界ランキングでも6位につけており、中国に次いで日本の脅威となる選手といえるだろう。プレースタイルとしては、巧みなサービスやチキータからの速攻、前陣での高速カウンターを得意としている。

両者は2019年T2ダイヤモンドマレーシア大会1回戦にて初めて対戦しており、その時は4-0で林が勝利を収めている。前回対戦で負けている林に水谷がどのようにして雪辱を果たしたのか。そこには戦術マスター水谷ならではの戦術があった。

2020ITTFワールドツアー・ドイツオープン2回戦:水谷隼 vs 林昀儒

詳細スコア

○水谷隼4-3林昀儒
10-12/6-11/9-11/11-5/11-8/11-7/12-10

1.台上でのバックハンド攻撃を封じる

図:水谷の「バックハンド封じ」戦術/作成:ラリーズ編集部

台上でのバックハンド攻撃が得意な林に対して水谷は、ストップ対ストップからの展開において先にバックサイドへと長いレシーブを送っていた。ストップをするために前に寄せられている林はこのレシーブに対して強打出来ず、バックハンドで持ち上げるようなレシーブを送ることしか出来なかった。

この戦術により水谷は、林のストップに対する台上でのバックハンド攻撃を封じ、バックハンド対バックハンドのラリーに持ち込むことに成功していた。

また第6ゲームから多用し始めた真下回転のサーブも林の台上でのバックハンド攻撃を封じるには有効であった。それまで水谷は順横回転系のサーブを軸に試合を進めていたが、このサーブに対して林がチキータでレシーブをするシーンが何度か見られた。

一方で、真下回転サーブに対して林は主にストップでレシーブしている。これは強烈な真下回転が掛かったサーブに対してのチキータは難易度が高いためである。実際に、林は第6ゲームの序盤で出された真下回転サーブに対して2本連続でチキータでのレシーブをミスしており、それ以降はストップでレシーブしている。

この真下回転サーブによって水谷は、林のチキータを封じ、ストップ対ストップの展開からバックハンドのラリーに持ち込むことに成功していた。

2.ピッチの速い攻めに少し下がって対応

図:水谷の下がってからの対応/作成:ラリーズ編集部

前述のように水谷は林の台上でのバックハンド攻撃を封じ、バックハンドでのラリーに持ち込むことには成功したものの、前陣でのピッチの速い攻めに対しては不利な状況であった。実際、ゲーム序盤には林のバックハンドに押し込まれたり、フォアサイドに大きく振り回されたりするシーンがよく見られた。

このピッチの速い攻めに対して水谷は、ゲーム中盤以降、台から少し下がって対応するようにしていた。これにより、自分のピッチで打球することが可能となり、バックハンドで押し込まれる展開が格段に減っていた。ゲーム後半には隙を見て回り込んでフォアハンドで攻撃したり、バックハンドでのカウンターでフォアサイドを打ち抜いたりと、攻撃的に対応することが出来るようになっていた。

またフォアサイドを狙われる展開に対しても、台から少し下がったことで、フットワークで追いつくことが可能となり、水谷の得意な台から下がっての大きなラリーに持ち込んでいた。終盤に水谷らしい後陣からの盛り返しが増えたのも、これが要因であろう。

この戦術転換こそが、水谷が0-3からの大逆転勝利を収めることが出来た一因だと考えられる。

まとめ

今回挙げた水谷の戦術は、相手の得意なところを封じて五分の展開に持ち込み、自分の得意なところを発揮して勝利を掴み取る、見事な戦術だと言える。相手に合わせて最適なポジションでプレーが出来る水谷ならではの戦術だろう。

続く準々決勝では林高遠(リンガオユエン・中国)にフルゲームの末敗れてしまったものの、この2試合で日本に水谷ありと象徴付けられたはずだ。ここからよりギアを上げていくと予想される水谷の活躍が楽しみである。

文:ラリーズ編集部

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