鷹千賀が先発で球界最高、中日藤嶋は“規格外” 直球の球速と空振り率の関係を検証

ソフトバンク・千賀滉大【写真:荒川祐史】

原則としてストレートは速いに越したことはないが…平均141.8キロの藤嶋は例外

 投球の解説において、空振りのとれるストレート、とれないストレートといった表現を聞いたことがあるだろう。一般的にストレートの威力はまず球速で評価される。しかし球速が速くてもそれほど空振りをとれない投手もいれば、遅くても空振りを多く奪える投手もいる。重要なのは球速ではなく回転数であるといった言説もよく聞かれるが、実際のところストレートの球速と空振りの間にはどのような関係があるのだろうか。

 イラストは2014年から2019年のNPBにおいてストレートが投げられた場合、どの球速でどれほどの割合で空振りが発生していたか、空振り率(空振り/ストレート投球)を集計したものだ。横軸が右に伸びるほどストレートの球速が速く、縦軸が上に伸びるほど高確率で空振りをとれていることを示している。

ストレートの球速と空振り率の関係(14年~19年)【画像提供:DELTA】

 これを見ると、青いプロットは左下から右上にほぼ一直線に伸びている。つまり球速が速いほどに空振りを奪える傾向があるようだ。球速と空振りの間に関係がないのであれば、グラフは直線に近い形にはならず、左上や右下にもプロットが散らばるはずだ。やはり球速は空振りを奪うために重要な要素となっているようである。

 ただこれはあくまでも全体の傾向である。個々を見るとそこから外れる投手もいる。その代表格が左上に赤く示した藤嶋健人(中日)だ。全体の傾向よりもはるか上に藤嶋のプロットは位置している。藤嶋は昨季ストレートの平均球速が141.8キロと速くなかったにもかかわらず、14.1%と高確率で空振りを奪っていた。ストレートの球速が遅くても空振りを奪える投手もやはり存在する。ストレートと空振りの関係を簡潔に説明するならば、原則的にストレートは速いに越したことはないが、それだけですべてが決まるわけではないという表現が適切だろうか。

オフのトレーニングで大幅に球速を向上させる投手たち

 近年は、オフのトレーニングにより前年とまったく違う姿になって新シーズンを迎える投手がいる。特に重点的にウェイトトレーニングを行った投手は前年に比べて、球速を大幅に向上させることも多い。昨季もオフをはさんで大幅にストレートの平均球速を向上させた投手が数多くいた。

 イラストは2018-19年の2シーズンにそれぞれ100球以上ストレートを投げた投手を、ストレート平均球速のアップ幅が大きかった順に並べたものだ。昨季ストレートの平均球速を最も向上させたのは中村恭平(広島)だった。2018年に平均140.8キロだったストレートが昨季は149.4キロまで8.6キロもアップ。球速アップに伴い、ストレートの空振り率も2018年の7.9%から13.6%にまで上昇させている。

19年にストレートの球速を大きく伸ばした投手【画像提供:DELTA】

 中村恭は2017年が1軍登板なし、2018年もわずか8登板に終わるなど、キャリアの危機を迎えていた投手だ。それが昨季は登板が43まで増え、シーズン後半にはセットアッパーを任されるまでになった。球速アップだけが飛躍の要因ではないかもしれないが、一因であることは間違いない。

 ほかにはもともとそれほどスピードがない投手、あるいは先発から救援に転向しスピードを大きく向上させた投手が並んでいる。そしてその多くが前年と比べ空振り率を上昇させているようだ

 そんな中、注目したいのが4位の千賀滉大(ソフトバンク)だ。2018年の時点でのストレート平均148.0キロは先発として球界最速クラスだったが、昨季はそこからさらに5.2キロアップ。平均153.2キロにまでストレートの球速を伸ばした。これにあわせ空振り率も6.2%から11.2%までほぼ倍増。これは先発を中心に活躍した投手の中ではトップの値だった。これまでの千賀は決め球のフォークがピックアップされることが多かったが、昨季はスピードアップもありまたひとつ上のレベルに到達したようだ。

球速がダウンしていた投手はどのような結果に?

 では逆に球速がダウンしていた投手たちはどのようなシーズンを送ったのだろうか。同じく2018-19年にそれぞれストレートを100球投げた投手で平均球速が最も遅くなっていたのは西武の野田昇吾だった。2018年に平均139.2キロを記録していたストレートは昨季平均134.0キロにまで低下。もともとストレートのスピードを武器とする投手ではなかったが、さらに遅くなってしまった。

19年にストレートの球速が大きく低下した投手【画像提供:DELTA】

 球速低下の影響もあってか野田は昨季、ストレートの空振り率が6.8%から1.4%に低下。5月には3回無失点に抑えた直後に、首脳陣との話し合いのもと2軍で再調整を決めたという報道もあった。大量失点を喫していたわけではなかったが、首脳陣はボールの威力低下を感じ取っていたのかもしれない。結局、2018年の58試合から昨季は23試合に登板数を減らしている。

 またこのように平均球速に変化が見られる場合、ストレートの球速にあわせてほかの球速も変化する場合が多い。例えば、昨季の野田はストレート平均-5.2キロに合わせ、スライダーの平均が-3.0キロ、シンカーの平均が-5.1キロとほかの球種でもスピードダウンを起こしている。球速の低下は打者からすればボールを見極める時間が長くなることを示す。見極める時間が長いほど打者には余裕が生まれるはずだ。こう考えると、投球は原則的にスピードがあるほうがよい。投手にとって打者に余裕を与えないのは非常に重要なことだ。

 ただこれは球種の改良などとはまた別の話だ。ある球種の曲がりを大きくするために球速を落とすといった判断が効果的になることは当然ありうる。ただその投手のベースとなる球速は速いに越したことはない。今オフも選手の自主トレの様子が数多く報じられ、その中には肉体改造を行う投手もいた。彼らは新シーズンにどのような姿を見せてくれるだろうか。(DELTA)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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