「共産党の市長はNO!」 こんな広告ってアリなの? 選挙ドットコムちゃんねる #11-2

今回のテーマは、2月2日に投開票が行われた京都市長選の選挙広告についてです。
Twitterなどでも話題になった「共産党の市長はNO!」との挑発的なコピー広告が
現職市長を応援する確認団体から発信されたことに住民はもちろん、政治業界も騒然!

この広告で団体の応援者として名前を連ねていた著名人のうち数名は「勝手に名前を使われた」などと発言。新聞社の調査などでも先行していると言われていた現職陣営が、こうした炎上必須の広告をあえて打ったのは、単なる「ミス」や「焦り」なのか、それとも「したたかな戦略」か?

この広告については、3人のレギュラーそれぞれの捉え方も三人三様。
公選法をかいくぐる選挙広告のノウハウ(!?)含め、選挙の裏事情もたっぷり!
これを見ると、選挙のニュースが10倍おもしろくなること請け合い!

さっそく番組をダイジェストでご紹介していきます。

まずは三つ巴の京都市長選をざっくりおさらい

乙武 「今回も始まりました選挙ドットコムちゃんねる。千葉ちゃん、松田さんよろしくお願いします。
さぁ、今回のテーマはこちらっ! 『共産党の市長はNO広告!?』 ということですけど、これはどういうことですか?」

千葉 「2月2日に投開票の京都市長選挙。大激戦が繰り広げられているんですけども、1月26日の京都新聞に出された広告が波紋を呼んでいるんですね。
まずはちょっと京都市長選挙のおさらいをしますと、こちらになります」

千葉 「4選出馬現職に新人2人が挑んでいますね。松田さん、なにか補足はありますでしょうか」

松田 「この門川さんが4選目ということで、それに対して共産党とれいわ新撰組が推薦している福山さん、そして村山祥栄さんですね。村山さんは元市会議員で12年前も市長選挙に出られているんですけども、もう1度チャレンジということで。

非常に激しい三つ巴の選挙戦が繰り広げられていまして、Twitterなどでも大変話題になっている新聞広告が出たと」

あの一面広告が公選法違反ではないカラクリとは?

千葉 「ではその波紋を広げている新聞広告をご紹介しましょう」

千葉 「1月26日京都新聞6面の広告です。『未来の京都をつくる会』の名義で、このような形で大きくですね『大切な京都に共産党の市長はNO』と書いてあると。この広告には自民党、公明党、国民民主党、立憲民主党、社民党が名を連ねているんです」

松田 「Twitter上で話題になっている点としては『そもそもこれは選挙違反じゃないのか』というものがひとつあるわけですが、これに関しては選挙違反ではないんですね。

実際に公選法で認められた範囲でやっているんですけれども、非常にややこしいのが門川さんの写真と名前が大きく入っているところなんですね。

この顔写真と名前の部分は選挙運動用の新聞広告なんですが、その周りはですね、これ未来の京都を作る会という政治団体が意見広告として出しているんですよ」

乙武 「ええっ? なるほど、じゃあ右下の真四角の写真と門川って書いてある正方形のスペースは門川さんが出してるわけね?」

松田 「そうそう」

乙武 「で、上のどでかい『大切な京都に共産党の市長はNO』って書いてあったり、その下の『いまこそ1チームで京都を作ろう』っていうところは門川さん自身が出してるわけじゃないと」

松田 「そうです」

千葉 「あははは、でもこれ門川さんの広告に見えませんか?」(笑)

乙武 「見えますよ!」

松田 「ですよね、どう見ても……。

一応、これはどういう扱いかと言いますと、首長選挙には『確認団体』という制度があるんです。
衆議院選挙だと例えば候補者に対して自民党公認とか立憲民主党公認などとすれば、その政党も候補者も選挙運動できるんです。

一方、地方選挙の首長選、いわゆる市長選とか県知事選挙の場合は、確認団体という特定の候補を応援する政治団体が1つだけ申請できて、選挙運動ができるんです。

候補者とは別に、確認団体がビラを出したりポスターを出したり、このような新聞広告を出すことが認められています。

この未来の京都をつくる会というのは、門川さんを推薦している確認団体で、その名義で広告を出しているんですが、まぁ一般の方から見ればどう見てもこれは門川さんの広告だという風に見えますよね。門川さんの顔写真の位置も、全体のレイアウト的に完ぺきなデザインに仕上がっていますし。これがちょっと踏み込んでいるなあという感じがしますね」

千葉 「完璧に一体のものとしてデザインされてますよね」

乙武 「要するにこれ、法的にはOKってことですね?」

過去には松田氏が関わった選挙でも、似た手法で広告が打たれた

松田 「直ちに違反とは言えないですね。実際、ちょっと手前みそなんですが、私が以前関わった選挙でもこういうことがありましたというのをご紹介しようと思いまして。

昨年8月25日に投開票された埼玉知事選挙で、両陣営が同じ日にそれぞれ同じサイズで広告を出したという事例なんです。

青島さんと大野さんの2人の候補者がそれぞれ広告を出しつつ、同時にそれぞれの候補を支援する確認団体も広告を出したということで」

乙武 「え、ちょっと待って!これまず大野さん自身は大野もとひろという名前と顔写真が入ってる長方形の小さなスペース、ここだけが大野さんが出している広告で、こっちの『県民が主役の県政~』から下の部分とこのお名前が、確認団体の広告?」

千葉 「たしかに下に団体名が書いてあるんですね」

乙武 「そうだね『大きな安心もっと広がる未来のさいたま市』っていう会が出している広告の中に、大野さん自身の広告が組み込まれてる感じになってるわけですね」

松田 「でもこれは一応、一体型ではないよということを主張するために、大野さんの広告のまわりにしっかりフチがあってですね、……しっかりと」

千葉 「イヤイヤイヤ…」(笑)

乙武 「一般の読者として言っていいですか? しっかり一体型として組み込まれてます!」

松田 「……ですね」

乙武 「じゃあ左側も見てみましょうか」

松田 「こちらは青島けんたさんの広告ですけど、それは左下に知事候補としてご自身の名前と顔写真の広告がありまして、それに『みんなが輝くさいたまの会』という確認団体が残りのスペースに広告を出している。これは意見広告じゃなくて街頭政策演説会という確認団体主催のイベントの告知、という体裁になっています」

乙武 「なるほど。これ完全に青島さんを森田さん、黒岩さん、菅さんが推してますよって僕には見えるんだけど~、建付けとしては青島さんを応援している確認団体が、こういう大物政治家を招いて演説会やりますよーってことになっているわけだ」

松田 「そうですね。まぁどっちも法の網をかいくぐっているだけの感じですね。
どうしてそんなめんどくさいことをしているのかというと、候補者の新聞広告のサイズが決まっているんですよ。非常に小さなサイズ。これが公選法で決まっていて、選挙期間中に4回までとか回数も決まっているんですね」

*編集部注 候補者の選挙広告のサイズは公選法により、横4センチ、縦2段以内と決まっている。縦2段のサイズは掲載新聞により異なるが、朝日、読売、産経、毎日、東京、中日新聞の場合、すべて66mmとなっている。

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松田 「それに対して確認団体のような政治団体に関しては、政治活動の自由というのがありまして。こちらは憲法で認められている思想信条の自由ですとか、表現の自由というところに基づく、非常に強い権利なので、選挙運動については限定するけれど、政治活動は広く認められるべきというのが民主主義社会の基本的な考え方なんです。

つまりあの広告もですね、あくまで、サイズや回数に制限なく自由に行える政治団体の政治広告と、候補者の選挙運動の広告が、なんかたまたま一緒になっちゃったなーみたいな」(笑)

千葉 「え、それはないでしょー」(笑)

乙武 「でもだとしたら、僕がもし新聞の広告を仕切る立場だったらさ、意地悪だから、青島さん自身の広告をこっち(大野氏の確認団体の広告)にはめて、大野さんの顔写真を反対側にはめ込んで、ふふふって笑いたいよね」

松田 「いやそれは陣営的には大問題だな!」

乙武 「でも逆に新聞のほうのルール上ではそれでもOKってことですよね。個別の広告を同時に扱ってるだけですから、レイアウトは新聞社側に権利というか決定権があるわけですよね」

松田 「そうです」

乙武 「逆にしたって別に、広告出してるほうは困るかもしれないけど、乗せる側は『たまたまそうなっただけですよ』って言えちゃうわけですよね」

松田 「まぁ厳密に言えばそれで異を唱えられるかといわれると、たしかに新聞社がそういう配置になりましたって言えばね……。事前にもちろん打ち合わせをして担当者がこういう紙面になりますよっていうのはサンプルで見せてくださるんでね。

ただ左下とか右下とかを確実に約束はできないので、反対側になるケースもあるんですよ。もし反対になっても問題がないように両方の紙面をサンプルで見せてもらったりとかそういうことはあるんですけど」

千葉 「ってことは、けっこういろんな事例があるんですか?」

松田 「実はあります。過去にもいろいろな形でね。とくに知事選とか政令指定都市の市長選挙のような規模の大きい選挙の場合に、使われることが多いです。まぁ、地域差もありますが。

基本的にはどの新聞社も選管に確認をして新聞社内でもチェックをして、これなら違反にならないと確認したうえで出すんです。ですからかなり文言とかには気を遣うんですよ」

乙武 「なるほどね」

門川氏が共産党候補だけに狙いを絞って攻撃したわけは?

乙武 「この広告でもうひとつ気になるのは、松田さんがさっきおっしゃっていた通り、今回の京都市長選は三つ巴の闘いになっているのに、門川さんが共産党陣営だけを、つまり対抗は2人いるのに、その片側だけをある意味名指しして『NO!』と攻撃するような広告を打ったのはなぜかと。これってけっこうよくあるんですか?」

松田 「いやーここまで非常にネガティブな形で批判をするっていうのは、珍しいですね」

乙武 「じゃあなんで今回はこういう広告になったんですか?」

松田 「現職が、こういった特定の政党や特定の候補を批判するような広告を出すというのは非常に珍しいことなんです。なぜそうなるのかというと、考えられるのはそのくらい門川氏の陣営には危機感があるんではないかと。

三つ巴になった場合、一般的には現職に対する批判票が村山さんと福山さんに分かれて、現職は戦いやすいと考えられるんですが……。

闘いを厳しくしている理由としては、門川さんへのいろんな党派の相乗りをよく思わない層が、村山さんを応援している現状もあるんです。村山さん支持には自民党支持者の方や立憲の元市議とかもいて、本来門川さんに乗るはずの票が村山さんに流れてしまう。

また福山さんには共産党とれいわ新選組がついたということで、共産党に無党派層が加わってくるのではないかという見立てもできます。

こういう状況から、むしろ門川さんと村山の間で票が分かれて、福山さんが勝つのではないかという危機感から、村山さんを完全に無視して『共産党NO』というふうに言って、無党派の中でも『共産党はちょっと』と思う人にメッセージを出している可能性が考えられるかなと思うんですが」

乙武 「なるほどねー」

現職がそこまでやると、再選後の議会運営に影響はないの?

松田 「でもなんでこういう広告を出したかは、僕的にもちょっと謎ですね」

乙武 「新聞とかの情勢を見てみると、門川さんはかなり先行してると書いてあるでしょ。そこまでやる必要あるのかなあってのはちょっと感じたんですけど」

松田 「そうですね。現職であれば普通は横綱相撲であるべきところなのにああいうね、当然批判を受けることを承知でやってると思いますが、そこまで踏み込んでいるのはなぜなのか。やっぱり現場は相当な危機感を持っているんじゃないかと感じます。

普通、新聞報道で『先行』と書く場合は、10%以上のリードがあるような状況なんですよ。だから今の時点で門川さんがリードしている可能性は高いと思うんですが、門川さんの選挙に関わっておられる方は今回4選目ということもあって、危機感が大きいのかもしれません」

千葉 「なんかこれだけ否定的な言葉、キャッチコピーを使うわけですから、いろんな方の合意や了承がないと出せないんじゃないかなと思ったんですけど、支援している政党の方たちは把握していたんですかね?」

松田 「各党側は把握しているとは思いますが、実際、あの広告に何人か…9人だったかな、識者というか著名人のお名前と顔写真が載っているんですけど、その中には『自分は了承していない』ということをブログなどではっきり表明されている方もいらっしゃいまして。

この広告は未来の京都をつくる会のHPにも載せていたそうなんですが、今それは削除されて見られない状態だというので、事前にお名前を載せる方に了承も取らずに広告を出したとすれば、現職陣営としては考えられないほどお粗末です」

乙武 「この『共産党の市長はNO』っていうフレーズで広告が出ることを、門川さんご本人は把握しているもんなんですか?」

松田 「通常は把握していると思いますけどね。ただまあ現職で、今回みたいにいろんな党が推薦している場合だと、本当に神輿に乗っかっちゃってるケースがあるんですよね。自分の名前で出す広告や政策のビラはチェックしていると思うんですが、確認組織の出した今回の広告に関しては『広告出しますね』っていうことだけ聞いて了承して、具体的にどんな文言になるのかはしっかり確認していなかったという可能性もあるかもしれません」

乙武 「もちろん選挙に勝つことだけを考えれば、こういうのもひとつの手法なのかもしれないけど、門川さんは当選する可能性がお三方の中では一番高いでしょうから、その後また4年間、京都市政をつかさどることまで考えるとね、こうやって市民の分断をより強くしてしまうような戦略はどうなのかなあって気がしてしまうんですけど。議会運営も大変になるだろうし」

松田 「同感です。共産党を弾いて『ワンチーム』ってのは、ちょっと酷いんじゃないかと。まぁ一方で、ネットなどでは『安倍政治NO』とか『自民党にNO!』だとか、そういう言い方は野党も普段からしてるわけなんで、共産党NOはダメで自民党NOはいいのかって話になるわけです。当然、それは権力を持ってるから批判されるという部分も大きいと思いますが。

批判の仕方に関しては野党・与党支持者ともに『NO』とかダメだとか、全否定ではなくて前回乙武さんも言っていたように、提案型で日本をよりよくしていく形のバトルを見せてほしいなと思います」

乙武 「千葉ちゃんはさ、この広告の一件、率直にどう思いましたか?」

千葉 「なんか、企業の新人社員のミスみたいですよね。門川さんが把握しているかどうかわからないわけですよね。これってボスがリスク管理をしなかったから、新人が勝手にやって炎上しちゃった~みたいな企業のね、よくある炎上事例に似てるなあと」

乙武 「なるほど、そうやってみてみると、たしかに企業の新人の先走りミスみたいだ」

松田 「ただね、政治業界に限っては、この広告がリスク管理を怠って炎上ってことなのか、確信犯的にやっていることなのかは、よくわからないんですよ」

千葉 「批判されたり炎上することまで予想済みの戦略ということですか?」

松田 「京都の市長選は、他の大都市と同じように投票率が非常に低くてですね、過去数回も30%台なんです。そこで打った新聞への広告。今、新聞を取ってる世帯がどんどん減ってますが、そういう状況下でも新聞を取り続けている層というのは、やはり投票率が高いんですよ。

なのでこの広告は、新聞を取っている=投票に行く可能性が高い人たちの中で、さらに共産党に対してネガティブな感情を持っている人たち『だけ』をピンポイントでターゲットにして、その人たちだけが自分に投票してくれればいいや、という戦略的判断かもしれない。

まあ、ほんとに単純に感情的なことでやっているのかもしれないんですが、そこはちょっとわからないですね」

千葉 「謎に包まれた広告ってことですね」

松田 「それは面白い表現だね。門川さん、今頃ブチ切れてるかもしれないしね」

乙武 「お前ら、何してくれてんだ!ってね。(笑)まぁ、今日はここまでにしておきましょう。週明けの結果がますます楽しみだね。チャンネル登録と高評価、よろしくお願いしますね!」

 

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