打撃投手で152キロ…鷹古谷の意識変えた監督の言葉「四球でも申し訳ないと思うな」

3日に今キャンプ初の打撃投手に登板したソフトバンク・古谷優人【写真:福谷佑介】

高校時代の最速は154キロ、昨季3軍戦で160キロをマークした

 宮崎で行われているソフトバンクの春季キャンプ3日目。初めて投手陣がフリー打撃の打撃投手として登板し、期待の若手投手が早速マウンドに上がった。2年目の泉圭輔投手、3年目の育成選手・尾形崇斗投手、そして、4年目の古谷優人投手だ。

 この3人の中でも、ひときわ輝き、衝撃的だったのが古谷だった。釜元豪外野手、真砂勇介外野手と対戦し、ヒット性は真砂の2本のみ。まだキャンプ3日目で打者は生きたボールに慣れておらず、圧倒的に投手が有利ではある。それでも、この日の最速152キロはやはりインパクト抜群だった。

 2016年のドラフト2位で北海道の江陵高からホークスに入団した古谷。高校時代の最速は154キロだったが、昨季は3軍戦で左腕最速となる160キロをマークした。だが、1軍での登板はなし。今季が4年目となる。

 その古谷、今季は目の色が違う。一冬越え、その下半身は一回りも二回りも大きくなった。長距離や短距離ダッシュなど様々なランニングメニューで1日計10キロは走り、徹底的に体をいじめた。下半身が安定したことで制球も安定。キャンプ3日目だが、その成長に自身でも手応えを感じていた。

 昨春のキャンプは、早々に故障して離脱。実はシーズンオフの練習量が不十分で体を鍛えきれていなかった。それが、今オフは一転。個人トレーナーも付け、連日、限界まで体を追い込んできた。その成果が大きくなった下半身に現れていた。

 タレント揃いのホークスにあって、そのポテンシャルは指折りと評判だった左腕。まだ“甘さ”の残っていた20歳の意識を変えたのは何だったのだろうか。

「秋のキャンプで倉野コーチや工藤監督からアドバイスを貰いました。普段はなかなか話せない人たちからのアドバイスで気持ちが楽になり、思い切ってやるだけだと思いました」

 昨秋のキャンプで工藤公康監督や倉野信次投手統括コーチから助言をもらった。昨季までは、150キロを超す真っ直ぐがありながら、制球に苦しんで崩れるケースが多かった。

「3年制球に苦しんできて、制球制球と気にしすぎていた。自分のいいところを出せないまま、歯痒いままプレーしていた。キャンプで『お前は制球じゃなくて、暴投でもいいから思い切って腕を振ればいい。腕を振ってゾーンに投げ込む練習をしろ、と言われて気持ちが楽になりました」

アジアWLを視察した工藤監督から助言、オフには結婚した

 さらには、オフに派遣されたアジアウインターリーグ中には、工藤公康監督が開催地の台湾まで視察にやって来た。派遣されていた選手やコーチ陣のホークス勢全員で食事に行った際に言われた一言も大きかった。

「監督からは『もし使われて四球を出しても申し訳ないと思うな。使った首脳陣が悪いんだ、くらいに開き直って思い切ってマウンド行ったら投げてこい』と。そういう考えをすれば、楽だなと思いました」

 昨季まではどうしても四球を出すことを恐れていた。カウントが悪くなれば、四球を出せば、相手の打者よりもベンチの首脳陣が気になった。「首脳陣との戦いになっていて、そういうことが結構あって。自信持って投げられていなかった」。指揮官の一言で自信を取り戻すことができ、ウインターリーグでも手応えを掴む投球ができた。

 もちろん危機感もあった。今季が4年目。高卒で入団した古谷だが、今年のドラフトでは大学を卒業する同級生たちが指名される。「今年何とか1軍に長くいれるようにしないと、今年こそクビというのがあると思った」。育成選手には戦力外となった同期入団の選手もいる。次は自分かもしれない。そんな危機感が胸に芽生えていた。

 頑張らなければいけない理由もできた。このオフには20歳の若さで結婚。人生の伴侶を得た。「心境の変化はありましたね。結婚してなかったら、あそこまで自主トレも追い込んでやれてないと思うんです。今年は何としてもやらないといけない。自分1人ではないので。何としてもやらないといけない」。これまでにないほど、責任感が芽生えた。

「結果も出てない自分と結婚してくれた。いつクビになるかも分からない中で、1軍で1試合も登板してない、3軍でしか主に投げてないピッチャーと結婚してくれて感謝しているんです」

 新妻への感謝の思いも口にした古谷。2017年には「胸郭出口症候群」による血行障害が判明し、その後は投薬治療を続けている。保存療法では完治はしないものの、しっかりとアップを行って血流を良くするなど、病との“付き合い方”も覚えてきたという。

 キャンプ序盤、まずは強烈なインパクトを残した20歳、古谷優人。楽しみな若手が揃うソフトバンクにあって、次に台頭してくる“新星”はこの男かもしれない。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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