神奈川県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で2016年7月、入所者ら45人が殺傷された事件で、殺人などの罪に問われた元職員植松聖被告(30)の裁判員裁判の第10回公判が5日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で開かれ、被害者参加制度を利用した2人が被告人質問に立った。長姉=当時(60)=を殺害された男性(61)は時折、あふれる涙をぬぐいながら被告に問い掛けた。「植松さん、どうして姉を殺したんですか」
「この裁判は切ない裁判だと思っています。あなたはどう思いますか」
午前10時半から始まった被告人質問。男性は冒頭、証言台の前のいすに腰掛ける被告に穏やかな表情で語り掛けた。
「そう思います」。黒のスーツに身を包んだ被告は背筋をぴんと伸ばし、はっきりした口調で答えた。
男性の姉は「甲Eさん」。三つ年上だった。生まれてすぐに脳性まひの障害を患い、意思疎通が難しかった。園に面会に行くたび、重い障害がありながらも懸命に生きる姿にいつも励まされてきた。
男性が質問に立ったのは、動機や新たな事実が知りたかったからではない。初公判以降、「障害者はいらない」と身勝手な主張を続ける被告に、命の重さに真正面から向き合ってもらいたいと思ったからだ。
もう一つ、理由がある。匿名審理は姉を否定することにならないか。そんな思いをずっと抱えてきた。だが、家族である自分自身が存在を認め、姉の代わりに質問に立つことが、供養にもなるのではないかと考えた。
男性は検察側の席から「植松聖さん」と呼び掛けながら、丁寧な口調で質問を重ねた。事件後に出頭した時の心境を尋ねると、被告は「一心不乱だったので、とにかく疲れました。亡くなられた方には誠に申し訳なく思います」と答えた。
男性は「(遺体と対面した)私は放心状態だった。姉の顔を見て涙が止まらなかった。今もはっきりと覚えている」と声を震わせながらタオルで涙を拭い、姉の最期の様子を尋ねた。被告は「申し訳ないが、細かく死にざまは見ていません」と淡々と応じた。
姉を殺害した理由を問うても、「意思疎通が取れない人は社会の迷惑になっているから」と持論を展開した被告。男性が「あなたは姉を殺した。どう責任を取るのか」と迫ると、「いたたまれない。それでも重度障害者を育てるのは間違っている」と語気を強めた。
質問を始めて約20分。これまでと同じような差別的な発言を繰り返す被告の姿に、男性は「切なくなってきた」とつぶやくように言って質問を終えた。
なぜ姉は殺されなければならなかったのか─。納得いく答えは得られなかった。それでも、と男性は言う。「この裁判で心に一区切りつけたい」。12日に予定されている意見陳述で被告と再び向き合い、自身の思いをぶつけるつもりだ。