イオンモバイル、「電話だけシニア」向け月額980円プランに秘めた思惑

「格安スマホ」ブームの火付け役で、2016年にMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスに参入した「イオンモバイル」が、シニア向けに月額980円(税別、以下同)の新プランを、3月1日から始めると発表しました。

同社はシニア向けプランを2019年9月に発表したばかり。さらに価格を抑えた新プランを導入する背景には、何があるのでしょうか。2月6日に開かれた新サービス発表会の内容から探ります。


「スマホに乗り換えると料金が高くなる」

「まだまだわれわれの提案が、オーバースペックだったと認識を改めた」――。60歳以上を対象とした、データ通信200MBつきの音声プラン「やさしいプランmini.」を導入する理由について、イオンリテールの井関定直・イオンモバイル事業部長はこう説明します。

イオンモバイルを取り扱う店舗では、大手キャリアの商品も併売しているため、3G停波のダイレクトメールを持参したシニアの来店客から、スマホへの乗り換えの相談を受けることが増えているといいます。

その中で多いのが「私は電話しか使わない。スマホに乗り換えると料金が高くなる」という声です。井関事業部長は「ガラケーからスマホに乗り換えるお客様の心理的キャズム(溝)が思ったよりデカかった。歩み寄れていないと感じた」と語ります。

9月から提供している「やさしいスマホ」は、500MBのデータ通信に、電話10分かけ放題などが付いて月額1,980円という価格設定。月額980円の新プランは、シニアのガラケーユーザーを対象に、さらにスマホを利用するハードルを下げる狙いです。

通話をメインとするプランですが、「少しずつでもネットを触れ、楽しんでいただくきっかけが作れないかと考えて、200MBを付けた」と、井関事業部長と言います。

有償でもスマホの設定してほしいシニア

イオンモバイルでは、ショッピングセンターの来店客層をターゲットにした取り組みを強化しており、シニアや学生向けのプランが好調。2019年12月時点で契約数が約59万回線を突破しています。

2019年秋以降、70歳以上のMNP(ナンバーポータビリティ)契約数が特に増加しており、約7割を占めます。3G停波による大手キャリアからの乗り換えの影響が大きいですが、新たに開始した店頭での有償の設定サービスが「スマホに変えるひと押しとなっている」(井関事業部長)といいます。

当初は、スマホ初心者向けにGoogleの設定を試験的に有償にしたところ、それ以外にも「有償でいいからやってほしい」という声が利用者から寄せられ、11月にラインナップを拡大。右肩上がりに利用件数が増えているようです。

有償設定サービスは、「Googleアカウント設定 端末初期設定」(2,000円)、「LINE設定・移行」(2,000円)、「電話帳のデータ移行」(2,500円)、「写真のデータ移行」(3,000円)といった料金設定で、パックプランも用意されています。

また、スマホの使い方を学べる勉強会を各地で開催。何度も参加するユーザーもいて、「シニアの方もスマホを使い倒したいという思いを感じる」(井関事業部長)。

こうした取り組みによってスマホに対する心理的な抵抗感を減らすことで、よりデータ容量の多いプランへ切り替えをしてもらう狙いがあるといいます。心理的ハードルを下げてシニアのガラケーユーザーを取り込み、ヘビーなスマホユーザーに転換できるかどうかが、イオンモバイルの今後を占うカギとなりそうです。

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