2019年「印刷業の休廃業・解散」動向調査

 2019年の印刷業の「休廃業・解散」(以下、休廃業)は436件(前年比13.2%増、前年385件)で、調査を開始した2000年以降で最多となった。全業種の「休廃業・解散」は、4万3,348件(前年比7.2%減)と2年ぶりに減少に転じたが、印刷業は3年連続の増加で対照的な動きをみせた。
 また、2019年の印刷業の倒産は106件(同4.9%増)で、3年ぶりに増加した。全業種の2019年の倒産は8,383件(同1.8%増)と、11年ぶりに前年を上回ったが、増加率は印刷業が3.1ポイント高く、業界環境が厳しいことを示している。

  • ※本調査は、東京商工リサーチが保有する企業データベースから「休廃業・解散」が判明した企業を抽出した。「休廃業・解散」は、倒産(法的整理、私的整理)以外で、事業活動を停止した企業と定義。
  • ※印刷業は、日本標準産業分類の「印刷・同関連業」(印刷業、製版業、製本業,印刷物加工業、印刷関連サービス業)とした。
休廃業・解散 業種別推移 印刷業

業歴別 業歴50年以上の老舗企業が最多

 2019年に休廃業・解散した印刷業を業歴別(判明418件)にみると、50年以上100年未満が109件(構成比26.0%)で最多だった。全業種では10年以上20年未満の構成比が20.8%で最多だっただけに、印刷業では業歴の長い老舗企業を中心に市場からの撤退が進んでいることが特徴となった。
 また、2013年は業歴10年未満が同11.6%を占めていたが、2019年は同7.1%まで減少した。印刷業界は、新規参入の減少と老舗企業の退出が加速している。

収益別 2019年の「黒字廃業」は64.7%

 2019年に休廃業・解散した印刷業の直前期の決算は、64.7%の企業が黒字(当期純利益)だった。全業種の黒字率は61.4%にとどまり、印刷業が3.3ポイント上回っている。
 印刷業の黒字率は、2013年が59.6%、2017年が77.6%と年により変動するが、総じて6割以上で推移している。

  • ※直前期は、休廃業・解散から最大2年業績データを遡り、以降で最新を採用。
印刷業 休廃業・解散企業 直近損益

 2019年に印刷業で休廃業・解散した企業は436社(前年比13.2%増)と、過去最多となった。企業倒産も106件(同4.9%増)と2年ぶりに増加し、1年間に約550社の印刷会社が市場から退出、淘汰される“冬の時代”を象徴している。
 長年、南関東でオフセット印刷・封入などを手がけていた印刷会社は、代表者が80歳を超え、後継者もいなかったため、2019年に廃業した。代表者とともに経営を担っていた親族は「大手学習塾の教材印刷を受注していたが、マス授業から個別指導への移行や元請けの内製化などで儲からなくなった。プレミアム商品券(の関連業務)で一時的に潤ったが、この20年は右肩下がりだった」と話す。
 ペーパレス化の流れで、印刷業界を取り巻く環境は年々厳しさを増している。ただ、発注元と印刷業者は長期的な取引になるケースも多い。
 今回の調査の特徴の一つとして、業歴の長い老舗印刷業者の休廃業が顕著だったことがあげられる。これは顧客と築いてきた強固な関係が、時間の経過のなかで大きく変化してきたことを示している。また、2019年の「黒字廃業」は64.7%に達したが、M&Aや事業承継などで新たな価値を創造できる余地を残すこともわかった。
 デジタル化の進展で、設備への投資負担や高齢従業員の業務対応が難しいとの声もある。顧客基盤や保有設備、従業員スキルなどを見極め、事業承継を探る丁寧な支援も重要だ。

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