ロッテ河合オーナー代行が選手に求める“考える力” 「ちゃんとした社会人に育って」

ロッテ・河合克美オーナー代行兼球団社長【写真:佐藤直子】

「Full-Count」単独インタで語る優勝にかける思い・最終回

 就任3年目の井口資仁監督の下、2010年以来となる日本一を目指す千葉ロッテマリーンズ。沖縄県石垣島で始まった恒例の春季キャンプで、チームは開幕に向けて調整を進めている。ドラフト1位入団した高校生右腕・佐々木朗希が連日、ニュースを賑わせるなど、大いに盛り上がる。

 オフにはフリーエージェント(FA)など積極的に戦力を補強し、順天堂大医学部と提携するなどメディカル体制も強化。リーグ優勝はもちろん、10年ぶりの日本シリーズ優勝に向け、チームを全面バックアップする河合克美オーナー代行兼球団社長に「Full-Count」が単独インタビューに。自身と球団の関わり、チーム経営と企業経営の相似点、今季優勝にかける思いなどを熱く語ってもらった。

 全3回シリーズの最終回は、若手選手に期待する思考力の強化、故重光武雄氏への思いだ。

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 海の向こう、米国メジャーリーグでは、打率や防御率など従来の成績とは違った角度からデータを読み解く、セイバーメトリクスが早くから導入されていた。リーグ平均に対する選手の価値を数値化したWAR、あるいはピッチャーが投げる球の回転数や回転方向、打者がバットを振り出す初速や角度など、野球をあらゆる角度から「科学」している。

 日本でも新たな動きを敏感に察知し、早くからデータ分析を専門とするアナリストを置く球団もあったが、ロッテは「足りなかったというより全くなかった部分です」と、河合オーナー代行は苦笑いする。

「球団本部内に新しい部署を作りました。いろいろデータを並べてみると、他球団に比べてどこが弱いかがはっきりする。今のデータは指標がものすごく細かく、かつ複層的なので、選手一人一人のリーグ内の立ち位置みたいなものまで見えるわけです。どのポジションをどうやって補強すればいいか、あるチームに勝つためにはどこを強化するべきなのか、はっきり分かる。ただ、データがたくさんありすぎるので、それをどう整理して、どう分析して使うかが分かれば、今までと違った発想ができるようになると思うんです」

「長く球界で活躍してほしいと同時に、ちゃんとした社会人にも育ってほしい」

 ただ数字を羅列されただけでは、何をどう活用するべきか分からない。また、一般的な見方しかできなければ、数あるデータも宝の持ち腐れとなってしまう。そこで、ロッテではチームアナリストが選手にデータの活用方法を伝授。佐々木朗希ら今季の新入団選手も研修を受けた。そこには、野球を辞めた後にも汎用できる「考える力」をつけてほしいという願いも込められている。

「新人選手には継続的に研修を行う予定です。それというのも、特に高卒の選手は、今までずっと野球漬けの日々を過ごしてきた。彼らには長く球界で活躍してほしいと同時に、ちゃんとした社会人にも育ってほしいわけです。そうした時に、いきなり社会人として道徳的な講習をやっても、みんな実感が沸かないと思うんです。そこで自分が一番大切にしなければならないこと、つまり野球に対してどう向き合うべきかということに繋げるために、データ分析を通じて社会人として論理だった思考を訓練してほしいなと。アナリストに教えてもらいながら、データを見て『自分には何が足りない』『もっとこうすればいけるんじゃないか』と思考を始める。若い時から、自分で考えて答えを出すという力を身に付けられれば、人間として厚みが増すと思うんです」

 考える力が備われば、自分に必要なことを、他人からの押しつけではなく自発的に取り組むことができる。

「メディカル面でもそうですよね。今の選手たちは、実は自分の体のことをすごく考えていて、トレーニング方法や体の成長に関する情報をいろいろ持っている。自分に一番身近なことですから興味が沸くわけです。ただ、そこにはやはり正しい方向に導く声は必要で、医療チームの先生形が選手一人一人の課題に対して解決策を議論する場を設けてくれる。3年後にどういう体になっていたいのか。そのためには、今どういう食事をし、どういうトレーニングをすればいいのか。それを押しつけではなく、自分の頭で考えることが大切なんですよね」

故重光氏への感謝 「どんなに赤字が出ても球団を支え続けてくれた」

 常に優勝争いができるチームを中長期的なビジョンで作り上げることを目標としているが、同時にチームには今シーズンの優勝も求めている。そこには、ロッテグループを一代で築き上げた故重光氏への感謝もある。長年ロッテを支えた重光氏は、1月19日に98歳で逝去した。

「1971年に経営権を取得して以来、およそ50年にわたって、どんなに赤字が出ても球団を支え続けてくれた。だから今、このチームはあるわけです。2018、19年と2年黒字になりましたが、それだけではとても返せるようなものではない。なおかつ、今年は井口監督が3年目なので、チーム全員が絶対に胴上げしよう、今年勝たないでいつ勝つんだ、と思っています。2005年に重光に『野球をちゃんとやれ』と言われてから、球団と深い関係が始まった私としては、今年は優勝して井口監督を胴上げして、重光さんに報告したい。その強い思いは監督・コーチ会議でも伝えましたし、最後の最後まで優勝を諦めない気概を選手たちも共有してほしい。簡単にできる話ではないと思っています。それでもチームが一丸となれば夢ではないと思います。そして、そこで終わらず、3年後、5年後には常に優勝争いに絡むチームになっていたい。まだステップの段階ですけれど、今年はどうしても優勝したいですよね」

 河合オーナー代行の強い思いは、チーム全体に浸透しているはずだ。チームスローガンに「突ッパ」を掲げる今季、ロッテの戦いぶりに注目したい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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