「肩が頭抜けているわけじゃない」鷹・城島氏が見た“甲斐キャノン”の本当の凄さとは?

ソフトバンク・城島健司氏(左)からアドバイスを受ける甲斐拓也【写真:福谷佑介】

城島氏は甲斐のスローイングの正確さを評価「胸から上に1球も行っていない」

 3年ぶりのリーグ制覇と4年連続の日本一を狙うソフトバンク。その正捕手といえば、侍ジャパンの一員にも名を連ねる甲斐拓也捕手である。2018年の日本シリーズで“甲斐キャノン”として一斉を風靡した男である。

 そのソフトバンクの春季キャンプで大きな注目となり、話題を振りまいているのが会長付き特別アドバイザーとしてホークスに復帰した城島健司氏だ。2005年までホークスの正捕手として君臨し、15年ぶりに復帰するとキャンプ中から選手たちに様々なアドバイスを送っている姿が印象的だ。

 その城島氏が甲斐の最大の武器であるスローイングを絶賛していた。

 宮崎キャンプ第2クール3日目となった8日のこと。キャンプ初のシート打撃が終わると、捕手陣が特守としてスローイング練習を行なっていた。サブグラウンドで行われたこの練習を城島氏が見つめていた。その目前で甲斐は次々と“甲斐キャノン”を発動させていた。

 城島アドバイザーはこの日の練習後、甲斐のスローイングについて、こう評価した。「ホークスにとって、甲斐の肩、これは守りの上で最大の武器として戦っていけるなと思いました。それくらいレベルの高いスローイングを見ました」。まさに「絶賛」であった。

 甲斐のスローイングの良さは知られたところである。ただ、そこは、球界トップの捕手として活躍してきた城島アドバイザーである。甲斐のスローイングの凄さを見出すポイントが違う。甲斐のスローイングといえば、強肩やステップの速さ、そしてポップタイムの速さなどがクローズアップされる。城島アドバイザーが「甲斐のスローイングの凄さ」を見たというのは、そこではなかった。

「皆さんは肩が強いとか、いい球が行っているというのを見てると思うんですけど、肩が強いキャッチャーっていっぱいいます。プロに来ているレベルなんで、甲斐の肩だけが頭抜けているとは思わないです。今日、皆さん見ていて、甲斐が何球投げたか分からないですけど、胸から上に1球も行っていないんですよ」

 城島アドバイザーが甲斐のスローイングの最大の長所として挙げたのは、そのスローイングの正確性。受け手の胸よりも下にボールを次々と投げ込んでいくところに目を細めた。

 そして、それには計り知れない難しさがある。捕手だからこそ分かるポイントだ。

城島氏が語る甲斐の凄さ「握れていようと、握れていなかろうと、正確な送球ができる」

「今日、50球を投げたとしたら、きちっとボールを握れたのって4、5球だと思います。キャッチャーってしっかりボールを握られれば、ベルトらへんに投げることは可能で、そんなに難しいことじゃないと思います。ただ、ゲームで50球投げて、ちゃんと握れるのは4、5球ですよ。しっかりと握れていない状況で全部胸から下に行っている。これをもっと凄いことだと評価してあげたいす、皆さんに評価して欲しいなと思います」

「これがゲームに入ると、セカンドやショートがベースに入るんですけど、ショートが遅れたりというケースがある。そういう時に、ベースに投げて誰もいないんだったら敢えてベースより1メートル左や右に投げたりしてあげないといけない。それで野手と共同でランナーを刺しにいくわけですから」

 捕手の盗塁阻止の二塁送球は、ボールをしっかりと握れていないことがほとんど。その中でも正確なスローイングを送り、走者を刺さなければいけないのが捕手である。甲斐はボールを握れていようと、握れていなかろうと、正確な送球を続けて投げることができる。そこに城島アドバイザーは甲斐のスローイングの真の凄さを見出していた。

 甲斐の最大の武器であり、そしてホークスにとっても守備の武器、そして抑止力となり得る“甲斐キャノン”。プロから見たときには、こういった凄さも隠されていた。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

© 株式会社Creative2