発売から11年、なぜ売れ続ける? ルノー・カングーの魅力を再検証

時間が経っても色褪せないどころか常に気持ちをリフレッシュしてくれるクルマは存在します。今回紹介するルノー・カングーに改めて試乗してみました。


発売は2009年なのに今でも大人気

現在販売されているカングーは2代目モデルで日本での発売は2009年とすでに10年以上を経過しています。多くの国産車であればとっくにモデルチェンジを行っているはずですが、後述する仕様変更や発売するとすぐに売り切れてしまう「限定車」の人気に支えられ、実はルノー・ジャポンで取り扱う車種の中でも最も売れています。

ちなみに2018年1-12月の販売台数が2,146台なのに対し、昨年(2019年1-12月)は2,386台とプラス成長。MONEY PLUSでも過去紹介したトゥインゴも人気ですが2,042台と2位。まさにビジネスを牽引する人気車なのです。

とにかくシンプル

カングーは元々コマーシャルバン(日本で言えば小型貨物車または商用車)として開発されたクルマです。欧州ではボディを延長した「カングーエクスプレス」やショートボディの「カングーエクスプレスコンパクト」という純粋な商用モデルをラインナップしていますが、日本では乗用モデルとして装備等も含め開発されています。

昨今の国産ミニバンやトールワゴンなどと比べると、とにかくシンプルです。一例ですが後席ドアには電動スライド機構も設定されません。インテリアに関しても日本仕様向けにシート表皮などはグレードアップしていますが、日本の装備満載車に乗っていた人からすれば少々拍子抜けするかもしれません。

シンプルな造形も人気のひとつ。カーナビはディーラーオプションで設定

大型犬に適している

現在のカングーは2013年にマイナーチェンジを行いフロントマスク周辺を大きく変えています。細かな部分の変更はあるとはいえ、それでもカングーのテイスト自体は変わりません。

ヘッドライトはハロゲンヘッドランプ。オプションでLED仕様も設定します

それではなぜこんなにカングーは売れ続けるのでしょうか? 今回カングーオーナーではない筆者が長距離も含めて使ってみた感想としては、前述した「シンプル」な点も含めた「道具感」と、乗るだけでワクワクしてくる感覚があります。

ルノー・ジャポンにも話を聞くと「自分のライフルタイルをもっと彩りのあるものにしたい」という思いがカングーユーザーの共通認識ではないか、とのこと。

上質感や利便性を高める装備は確かに魅力的ですが、ボディカラーやデザインも含め、「このクルマに乗ってどういうライフスタイルを送ろうかな」と思いをめぐらせたくなる部分が魅力と言えます。

実際、カングーの売りのひとつである荷室。ドア自体もダブルバックドアと呼ばれる観音開きを採用することで狭い場所でも開閉が可能です。圧倒的なのが荷室スペースと使い勝手の良さです。タイヤハウスの出っ張りもほぼ無いまるで「四角い箱」とも言える空間ゆえに無駄がありません。

ダブルバックドア(観音開き)とスクエアな荷室により実用性は極めて高い

また付属されるトノボードは外から荷室の中身が見えない機能を持ちますが、セットする位置を2段階に変えられるので、荷室空間を上下2段に区切ることも可能です。例えば上段に荷物、下段に汚れたもの、などユーザーの考え方ひとつで使い道も大きく拡大できます。

また地面から荷室フロアの位置が低いのも大きな特徴です。重い荷物(例えば2L×6本入りペットボトル)を積載する時なども腰への負担が少なくなります。

そしてこの低さはペットが乗り降りする際にも非常に便利です。あくまでも個人的な実感ですが、カングーのオーナーには大型犬(ラブラドール・レトリバーほか)を飼っている方が多いです。共通する理由として「とにかく乗り降りがしやすいから」を挙げています。

元々使い勝手も良く、空間を活用できるカングーだからこそ、既存のミニバンとは異なりペットにも優しい仕様として評価されている点も取材を通じて感じました。

長距離走行も疲れない

現在のカングーは、2014年5月にエンジンをそれまでの1.6Lから1.2Lターボ仕様に載せ替えています。また時期は異なりますが、2014年には6速マニュアル車も設定し、ターボ車にも継続して搭載されています。前の1.6Lエンジンはタイミングベルトの交換時期が比較的早かったのですが、1.2Lエンジンからはチェーン式に変更することでその悩み(交換工賃ほか)も改善されました。ユーザー間でもこの改良は高く評価されています。

試乗したのは1.2LターボにEDC (エフィシエント デュアル クラッチ)を組み合わせた車両で、販売の主軸となります。EDCは平たく言えばATですが、ダイレクトな加速フィーリングや燃費向上にもメリットがあります。

搭載するエンジンは1.2Lですが2L級のトルクを発生します

2代目のカングーは、衝突時の安全性確保の点などからボディサイズが拡大しました。ファンの間では当初「デカングー(でっかいカングー)」とか呼ばれていましたが、実際は視界の広さも含め実は取り回し自体はしやすいです。もちろん全幅はそれなりにあるので対向車とのすれ違いや屋外で駐車する際などは注意は必要です。

今回、高速道路も含め約300kmを走行しましたが、驚いたのが高速走行時の安定性や乗り心地、さらに静粛性の高さです。

「ベースが商用車なので乗り心地もそれなり」という先入観を持っていましたが、そういうものは全て取っ払っていいと思います。

秀逸だったのがシートの出来の良さです。しっかりと骨盤周辺を支えるシートは昨今のトレンドですが、カングーは10年前からこんな印象。走行距離が必然的に増える商用車であれば、乗員の疲労を増やさないのは当然であることを再認識しました。

フロントシートは着座感もしっかりしており、疲れないのが特徴です

荷物を積載した状態でも、アクセルを深く踏み込まずに十分な加速を得ることができます。今回は実用燃費を向上させる「ECOモード」を多用しましたが、それでも走りは快適。カタログ燃費は14.7km/Lですが、満タン法で計測した12.5km/Lという結果は満足できるものです。

売り切れ必至の「限定車」

カングーの販売を支えるひとつに毎年のように発売される「限定車」の存在があります。国産車ではボーナス商戦や決算前後にお買い得な仕様を追加した「特別仕様車」を投入しますが、カングーの場合は少し異なります。

カングーを取り上げた理由として、2020年1月23日に「クルール」という限定車が発売されたこともありました。

限定車「クルール」にはユーザーから人気の高いブラックバンパーを採用

ルノーの限定車は人気が高く、元々導入台数が少ないとはいえすぐに売り切れてしまいます。カングーは、ほぼ毎年限定車を市場に投入しています。「クルール」自体は昨年も2回発売された人気モデルで毎回異なるボディカラーが人気です。ルノーによれば「クルール待ち」というお客様もいるそうで、今回のクルールは「ハーブやグリーンを使い、草原から摘んできたような自然な装いと、爽やかなアロマが特徴の『シャンペトルブーケ』と呼ばれるアロマスタイルがあります」(ルノーの資料より)。

今回のクルールはこのイメージに合わせた「ヴェール シャンペトル」というボディカラーのほか、専用のブラックバンパーやドアミラーなども採用し200台限定で販売されます。

人と違うクルマに乗りたい

ルノーによれば限定車も含め、カングーの販売が好調なのは「他に乗っている人が少ないから」という点が上位に来るそうです。これにはデザイン、ボディカラー、前述した「道具感」など様々な要因が評価されているからだと思いますが、ブラックバンパーやスチールホイールなど国産車では正直ウケない仕様も人気なのは「逆にブラックの方がカスタマイズのしやすい」と考える人も多いからではないでしょうか。

何よりも商用車だからと言って手抜きをせずデザインされている点をユーザーは見逃さないのです。フランスではバリバリの商用車でも日本では「オシャレ」に見えます。言い換えればユーザーの「クリエイティビティ(創造力)」を刺激するからだと思います。

ファンミーティングに5,000人

ルノー・ジャポンでは毎年カングーオーナーを中心としたファンミーティングである「ルノー カングー ジャンボリー」を開催しています。昨年で11回目だったこのイベントですが、本国でも注目を集めるほどの大人気イベントです。

昨年の「カングー・ジャンボリー」も大盛況でした

実際、昨年のイベントも1,714台のカングー(総入場台数は2,422台、参加人数5,019名は過去最高)が日本各地から参加しました。ファン同士の交流の場であるこのイベントですが、フリマあり、デイキャンプあり、とユーザー1人1人が自分たちのカングーライフを楽しむ場となっています。

一番魅力的なのがユーザー感のリアルな情報交換ができる点です。カスタマイズの方法などもそれぞれが持っている情報を実車を見ながらコミュニケーションを取るスタイル。昨今のネット社会では味わえない世界がここにはあります。

今年の予定はまだ「未定」ですが、カングーオーナーにとっては年に一度の大事なイベント(ルノー車オーナーも参加可能です)、カングーが売れる秘密はクルマだけでなく、それを支えるユーザーの「生活を楽しもう」という気持ちだということを試乗を通じて感じました。

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