【水八寿裕コラム】停泊中のクルーズ船への医療・医薬品の提供方法について一考

(写真)大型客船ダイヤモンド・プリンセス号 (横浜市中区海岸通) posted by (C)Rubber Soul

  新コロナウイルス感染症対策のため、横浜のふ頭に停泊措置がとられているクルーズ船の件は、皆様も関心を持っておられると思います。
現在非常にセンシティブな問題でもあるため、自衛隊関係者の医官(医師)看護官(看護師)が懸命の業務を行っている状況であるようですが、国内法の適用なども含めた諸問題が発生しているものと推測されますので、若干問題の提起をしたく書き留めます。

災害医療と緊急措置

 3000名以上の方が船の中で過ごすということは、感染性疾患の発生時には集団災害の現場となりうるという意識は必要でしょう。「船旅をするので90日分処方してもらいました」など、私も薬剤師ですので患者さんへ医薬品交付したことはあるのですが、必ずお薬手帳は持参しましょうね、というコメントはそれほど意識しなかったような気がします。

 国内専用船ではなく国際客船の場合は、医療スタッフも多言語対応が必要で、しかも国内承認薬だけではない医薬品の鑑定も余儀なくされるので、それなりの経験のある医療者が求められます。またBCN(生物兵器・化学兵器・核兵器)対応の医療活動の基本を理解しているメンバーが選ばれたということはそれなりの意義があると考えても良いでしょう。

 現在船内に入っているかは不明ですが、薬剤師も当然チームに加わっていると思われます。さきほど申し上げた処方薬名の翻訳、処方薬の鑑別、それらをミスのないように行うのは薬剤師の役割です。

 現時点(9日朝)の時点でお薬の配給が始まったようですが、まだまだ要望を満たしていないと報道されています。筆者が聞いた限りですが、クルーズ船対応の医薬品交付準備の現場でも薬剤師の増員を求められているようです。こういった場面でも、いや、こういった場面こそ薬剤師の能力が求められていることをぜひ知っていただきたいと思います。

船内での医療活動をサポートする医療資源は遠隔医療?

 自らの感染のリスクを抱えての船内医療活動は過酷なものであると想像します。必要なトリアージの後は、後方支援として遠隔医療の実践を行うことが必要ではないかと考えます。現状の医療資源の疲弊を防ぐ、船外での的確なサポートの手法の一つとして検討は出来ないでしょうか?
今回の事態は、東京オリンピック等、多くの客船が停泊する予定のエリアにおいても今後十分起こりうる事象です。BCP(事業継続計画)の観点からも、是非取り組んでいただければと考えます。

水 八寿裕

ふくろうメディカル代表・株式会社実務薬学総合研究所 薬剤師 東京理科大学薬学部 臨床准教授 1968年福島県郡山市生まれ。1990年東京理科大学薬学部に入学、大学院修了(薬学研究科修士)。武田薬品工業でMRとして勤務。その後薬剤師(薬局・大学病院・診療所)人材会社を経て現職。
※ふくろうメディカル:個人事業で医療関連の著作・研修資料作成などを行なっています。

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