「あと少し、もう少し」

 古くは太宰治の「走れメロス」、最近の作品で思いつくのは、ドラマにもなった池井戸潤さんの「陸王」。「長距離走」をテーマに書かれた小説は意外に多い。昨年、別の作品で「本屋大賞」に輝いた瀬尾まいこさんの「あと少し、もう少し」もそんな1冊▲舞台は、山間部の小さな中学校。寄せ集めの男子6人がそれぞれの事情や思いを抱えて、県大会の出場権をかけた駅伝大会に挑む。6位までに入れなければこれが最後のレース▲懸命に走る彼らの物語と“伴走”しながら、読み手は、題名に二重三重の意味が込められていることに気づく。あと少し速く走れたら。中継所までもう少し。この仲間と「あと少し、もう少し」一緒に走っていたい-と▲タイムは短い方がいいけれど、この時間がいつまでも続けばいいのに…そんなランナーの不思議な心理を勝手に想像してみた。早く結末を知りたいけれど、この本を読み終えてしまうのは惜しい…あの気持ちに少し似ているのかもしれない▲1秒でも速く次の走者にたすきを。でも、この舞台でいつまでも走っていたい。ふるさとの407.3キロが出場者にとってそんな場所になっているといい▲今年の郡市対抗県下一周駅伝は14日スタート。選手も、声援を送る私たちも、出番まで「あと少し、もう少し」だ。(智)

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