インターネットの情報は偏っている!? フィルター・バブル、エコー・チェンバー現象から子どもを守る方法

プログラミングが得意な子は、コンピューター好きなので、当然のことながら、インターネットとも親和性が高いようです。あらゆることをググり、大人顔負けの知識を身につけています。ですが、そこには大きな落とし穴があるのです。

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】はこちら

フィルター・バブルもしくはエコー・チェンバー現象

個人情報保護の観点から、私が相談に乗っているお子さん2名のエピソードを混ぜて、完全に匿名で仮想的なP君とQ君の事例としてお話します。

P君はいわゆる天才肌で、数学とプログラミングが得意で、物静かな小学校高学年の男の子。マルチタスク能力に優れ、どんなことでも検索して、知識欲が止(とど)まるところを知りません。

ところがP君、私自身が数学やサイエンスを教えていて、あれれれ?と思うことが多くなりました。

[ 画像が省略されました ]

P君、地球温暖化の宿題やってきた?

[ 画像が省略されました ]

はい、地球は完全に寒冷化しています。

[ 画像が省略されました ]

ほお、それはまたどうして?

[ 画像が省略されました ]

現在は氷河時代だからです。

[ 画像が省略されました ]

それは科学的に正しいね。正確には氷河時代の中の間氷期だから、比較的暖かい時期だよね。

[ 画像が省略されました ]

はい、そしてふたたび寒冷化に向かうと思われます。

[ 画像が省略されました ]

でも、人為的な二酸化炭素排出の影響は?

[ 画像が省略されました ]

確固たる証拠はありません。

[ 画像が省略されました ]

じゃあ、寒冷化するという確固たる証拠はあるの?

[ 画像が省略されました ]

はい、地球科学者や生物学者など、多くの科学者が寒冷化すると言っています。

[ 画像が省略されました ]

状況はわかった。では次の討論会では、P君は地球寒冷化ではなく、地球温暖化のグループに入って討論してください。

[ 画像が省略されました ]

え? 嫌です。

[ 画像が省略されました ]

どうして?

[ 画像が省略されました ]

ボクは地球寒冷化を信じているからです。信じていない意見で論じることはできません。

[ 画像が省略されました ]

P君、科学は信じる信じないの問題ではないよ。それは信仰だよ。科学は知るか知らないかだよ。

[ 画像が省略されました ]

ではボクは、地球が寒冷化していることを知っています。だから討論会では地球寒冷化のサイドに……。

[ 画像が省略されました ]

いえ、もうカオル先生は決めました。状況が悪化しないうちに、まず一回地球温暖化側でデータをリサーチしてみてください。

P君には、大きな問題が起きかけています。学習発表で、地球温暖化賛成派と反対派による模擬討論をやってもらうのですが、あまりに熱心に地球寒冷化の意見をググってしまった結果、P君の頭には、「大多数の科学者が地球寒冷化を支持している」という誤った事実認識が植え付けられてしまったのです。

ある見解をググればググるほど、検索エンジンのフィルターが機能し、その見解を支持する検索結果ばかりが目に付くようになるという、フィルター・バブル現象です。周囲からはバランスが崩れていることが明白ですが、当の本人はフィルターによって受けた情報制限の「泡」(バブル)の中に閉じ込められて、異なる意見や多数派のデータにアクセスできなくなってしまうのです。

SNSを通じて交わる人々も、徐々にバランスの崩れた意見の持ち主ばかりとなり、まるで反響室(エコー・チェンバー)の中で同じ言葉ばかりを聞いているような悪循環がはじまり、偏りがさらに酷くなってしまいます。こうなると、もうサイエンスのカオル先生(私)の意見にも耳を貸そうとしなくなります。危うい状況です。

この状況から脱するには、もはや、強制的に討論のサイドを変えて、地球温暖化のデータ集めをしてもらうしかありません。最初はそういうデータが捏造や陰謀だと考えてしまうでしょうが、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の気候学者たちによるレポートなどに触れるうちに、徐々に自らの意見の偏りに気づいてくれるはずです。

インターネットとのつきあい方

インターネット上には膨大な集合知があります。うまく活用すれば勉強もはかどるでしょうし、刻々と変化する世界情勢を把握し、災害情報をいち早く手に入れられる、という利点があります。

その一方で、P君のようにインターネット上の検索システムやSNSの仕組みのせいで、どんどん意見や知識が偏ってしまう弊害も指摘されています。

小学生や中学生に、インターネットを自由に使わせるべきかどうかといった議論がありますが、フィルター・バブルやエコー・チェンバーといった現象は、子どもが自分で気づいて修正するのが難しいのが実情です。ゆえに私は、「批判的な思考力」が身につくまでは、子どもたちのスマホやタブレットやパソコンは、親がキチンとモニターする必要があると考えています。年齢に応じたアクセス制限も必要でしょう。

ただしここは匙加減が難しく、子どもたちが小さな失敗を積み重ねながら、インターネット・リテラシーを手に入れる必要があるため、完全な箱入り状態、純粋培養はダメです。かといって、自由放任では、フィルター・バブルとエコー・チェンバー効果により大変なことになる恐れがあります。プログラミングに強く、インターネットセキュリティに精通している大人が、きめ細かく指導する必要があります。

イスラム過激派

次にご紹介するQ君はも小学校高学年で、P君と同様、数学とプログラミングが大の得意です。理解力が半端なく、きわめて聡明なお子さんです。そんなQ君が、ある日突然、こんなことを言い出しました。

[ 画像が省略されました ]

先生、ボクはイスラム革命のために日本を出ようと思います。

[ 画像が省略されました ]

は? いきなり何を言い出すんだ? ちゃんと説明してよ。

[ 画像が省略されました ]

はい、インターネットで世界情勢についてずっと調べていたんです。結論としては、日本はアメリカと同盟を結んでいる関係から、政府の発表が偏っていて、マスコミも記者クラブの制度で政府にコントロールされています。ですからインターネットの情報しか信じられません。そして世界の歪みを直すためには、イスラム革命しかないという結論に達しました。

[ 画像が省略されました ]

わかった。じゃあ、一緒にインターネットで情報を集めて、もう一度考えてみようか。出国するまでに時間はあるでしょ?

かなり驚かされましたが、断片的に正確な情報も含まれており、難しい問題だなと考えさせられました。

日米同盟は事実ですし、アメリカ軍の基地が日本各地に点在していることも事実です。アメリカが対立する国や地域は、日本とも対立する可能性が高いことも事実です(イラン問題などでは、日本は、板挟みのギリギリの外交を余儀なくされます)。

また、記者クラブという閉鎖的なシステムは、たしかに言論の自由や情報公開への制限となっていることは、海外のマスコミからも指摘されている事実です。ですが、Q君はそこから一足飛びにイスラム過激派の思想に共鳴し、それが唯一の正義だと考え、自分が参加しようというのです。

Q君の場合も、彼が共鳴してしまったイスラム過激派が、過去にどれくらい残虐な行いをしていたのかを一つひとつ確認していくことで、徐々にフィルター・バブルとエコー・チェンバーから抜け出ることができました。私は彼に一つの忠告をしました。

[ 画像が省略されました ]

いいかい、インターネットから情報を得れば偏りがなくなるというのは幻想なんだ。自分から情報を獲りに行くからこそ、落とし穴も大きい。だからマスコミの情報も、あえて受け入れていくほうがいい。そして、ちがった意見をもつリアルな人間と話すことで、情報の偏りが修正できるんだよ。

そう、インターネット漬けをやめて、あえて新聞を読み、テレビのニュースを見ることで、軌道修正できるのです。小学生新聞、中高生新聞を読むことも大切だと思います。そして、さまざまな意見をもつ、リアルな人間とディスカッションをすることが大事です。

インターネットは諸刃の剣

P君とQ君は、ともに数学とプログラミングの才能があり、特殊な事例だと思われるかもしれませんが、デジタルネイティブの子どもが多い現代社会においては、どんな子どもでも、インターネットの罠に陥る可能性があることを忘れないでください。

インターネットは諸刃の剣なのです。

もしも、読者のお子さんやお孫さんが、フィルター・バブルやエコー・チェンバーに捕らわれていそうだと感じたら、慌てず、すぐに是正措置を講ずるべきです。失敗を経験することで、子どもは、インターネット検索を盲信することをやめ、情報を選択する必要性を学びます。それが、批判的な思考力なのです。

P君とQ君は、まだ小学生であるにもかかわらず、フィルター・バブルやエコー・チェンバーを経験することになりました。それは、ある意味、ラッキーだったのではないでしょうか。もしも大人になって、社会に出てから誰からの指導も得られない状況で、フィルター・バブルやエコー・チェンバーに捕らわれてしまったら、最悪SNSで炎上して会社を懲戒解雇されたり、犯罪行為に手を染めたり、紛争地域を訪れて命を落としたりするかもしれません。

ですからインターネットの怖さは、できれば小中学生の間に経験したほうがいいのだと私は考えています。まあ正直に告白すると、P君とQ君の偏りに気づいた瞬間は、私もそれなりに動揺し、心臓がドキドキしました……彼らが無事に罠から抜け出せて、ホッと安堵しております。

この記事が気に入ったら「フォロー」&「いいね!」をクリック!バレッドプレス(VALED PRESS)の最新情報をお届けします!

これまでの【竹内薫のトライリンガル教育】はこちら

トライリンガル教育 - バレッドプレス(VALED PRESS)

© Valed.press