昭和30年代の長崎を舞台に、長崎原爆による被爆とカトリックの信仰について描いた映画「祈り」の県内ロケが4~11日の日程で、東彼川棚町の片島魚雷発射試験場跡や長崎市の館内市場などで行われている。映画は4月完成予定。5月には米ニューヨークの国連本部で上映会を計画している。
原作は長崎市出身の劇作家、故田中千禾夫(ちかお)(1905~95年)の戯曲「マリアの首」。原爆で壊滅的被害を受けた旧浦上天主堂の取り壊しに伴って撤去の動きがある被爆マリア像を守ろうとするカトリック信者の女性、鹿と忍の2人が主人公。59年に岸田演劇賞など受賞。映画化は初めて。
メガホンを取るのは、戦争の悲劇を描いた映画「サクラ花 桜花最期の特攻」などで知られる松村克弥監督。主演は鹿役を高島礼子さん、忍役を黒谷友香さん。寺田農さんらベテランキャストが脇を固め、島原市出身の宮崎香蓮さんも出演する。9日に川棚町であったロケでは、片島魚雷発射試験場跡の建物を、廃虚と化した旧浦上天主堂のセットとして活用。がれきに埋もれたマリア像の首を鹿と忍らが盗み出そうとするクライマックスシーンなどが撮影された。
記者会見で松村監督は「軍事施設だった場所で、戦争の悲惨さや平和の尊さを描く映画を撮るのは不思議なつながりを感じる」「被爆75年の節目。映画を通じ全世界に長崎の悲劇を伝え、戦争の記憶を残そうとした庶民の姿を知ってほしい」と語った。
高島さんは「ロケに入る前、長崎で原爆に関する資料を見て、被害の大きさに衝撃を受けた。気持ちの入った演技ができている」と述べた。黒谷さんは「役を通じ戦争を身近に感じるようになった。この作品がみんなで戦争のない世界を目指すきっかけになればうれしい」と話した。
国連での上映会は、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に合わせた非政府組織(NGO)の会合の場を想定。7月に本県で先行上映し、9月から全国公開の予定。