“リアルサカつく”戦国時代!国際型サッカークラブ「鎌倉インテル」の野望

本田圭佑が東京都リーグでクラブを立ち上げるなど、昨今大きな注目を集めている「リアルサカつく」。Jリーグ入りを視野に入れるチームは現在全国に数多く存在している。

神奈川県鎌倉市。日本史の授業で必ず名前が出てくる彼の地にも2018年、新たなサッカークラブが誕生した。

鎌倉インターナショナルFC。通称、鎌倉インテルである。

古都・鎌倉でありながら、インターナショナル。

現在神奈川県2部リーグに所属するこのクラブは、何をもって鎌倉に誕生し、どこへ向かおうとしているのか。

Qoly×サカつくによる「リアルサカつく」紹介企画、第3弾は謎多きクラブ、鎌倉インテルを特集。

『サカつく』のプロデューサーである宮崎伸周氏とともに、代表を務める四方(よも)健太郎氏にクラブの成り立ちや噂に聞くスタジアム構想、「インテル」としてのビジョンを聞いた。

(取材日:2019年11月5日)

はじまりは『世界一蹴の旅』

「まずは簡単に自己紹介いたします。2009年から2010年にかけて、今では“プロサポーター”となった村上アシシと2人で『世界一蹴の旅』をしたというのが、サッカーファンの方には一番わかりやすいでしょうか。2010年のW杯に出場する32カ国をめぐる世界一周旅行企画をやってました。

企画構成からスポンサー集め、写真や映像を撮り、自分たちで編集まで全部やってブログなどで発信する。それがあのプロジェクトでしたね。

世界を旅する企画物ではむかし、『電波少年』という番組に出ていた猿岩石が有名ですが、あれが20世紀型だとすれば、僕たちのは21世紀型。スタッフがいるわけではなく、全部自分たちでやってました。

2010年当時は日本ではまだSNSが発達しておらず、ちょっと早すぎましたね(笑)。でも、インターネットと親和性の高いサッカーのファンにはかなり話題になって、自分たちも面白くやっていました」

大学卒業後、外資系のコンサルティング会社で働いていた四方氏。彼は2010年の南アフリカワールドカップに向けて行った『世界一蹴の旅』でサッカーファンに知られるようになった。

現在は起業し、シンガポールを生活のベースにして、企業向けのグローバル人材育成の事業を営んでいる。

具体的には、世界で活躍できる人材を育てることを目的とした海外研修プログラムの企画・運営で、シンガポールはじめ、ベトナムやタイ、カンボジアなどのアジア新興国をフィールドとした実践型のプログラムが人気を博している。

そんな彼が、なぜ鎌倉にサッカークラブを作ってしまったのだろうか?

「鎌倉インテル」というアイデアの原点

「2012年からJリーグのアジア戦略が始まり、その中心にいる山下修作さん(現・国際部長/パートナー事業部長)がいました。彼も元々バックパッカーで、発展途上国の支援が必要な子どもたちにJリーグのユニフォームを配る企画を行っていたんです。

そうしたら、そこにASEANの経済成長とサッカーの発展がかみ合いだしました。現在は北海道コンサドーレ札幌のチャナティップ選手による、タイと北海道のコラボレーションという成功事例も生まれてきていて、アジア戦略がある程度軌道に乗っていますが、当時はまだ駆け出しのタイミングでした。

僕としては直感的に、『これは面白いぞ。サポートというのはおこがましいが、自分も何か力になれないか』と感じていました。そこでアジアサッカー研究所を立ち上げて法人化し、Jクラブのアジア戦略の支援を開始したんです」

今では官公庁など様々な団体と連携しているJリーグ。当時はその走りの時期だった(※写真は上記の山下氏が「海外ビジネスEXPO2019東京」で行った基調講演の様子)。

「ただ、日本のサッカークラブは競技面ではプロフェッショナルですが、ビジネスが絡んでくる話、特に前例がないものになると、かなり難しいところがある。周囲にアジアの風が吹き始め、皆、総論としては『面白そうだ』と感じているものの、実際には各論どうしていいか困っている人がかなりいるように見受けられました。

そこで、10を超えるクラブを実際に訪問させていただき、具体的な話をいくつか持ちかけてみたのですが、クラブと一緒になんらかの企画を進めていくことにはかなり苦労しました。現実的には、海外や新興国の現在や未来のイメージをできている人は日本には少ないですし、どちらか言えば苦手意識のほうが強い。そして何事においても日本のほうが優れている、と思い込んでいる人たちもたくさんいました。

サッカー先進国の欧州以外の海外とコラボレーションしよう!と心の底から思ってるいる人はほぼ皆無でした。

そうしたなかで、2017年の5月くらいのことです。シンガポールの家の近所の、鉄道駅の近くのガード下の屋台で、日本人のサッカー仲間と一緒にタイガービールをのみながら愚痴をこぼしていたら、『じゃあ自分でやればいいんじゃない?』と言われまして。

それまでその発想はなくて、たしかに、どうせ大変なら、『周りが動かないから…』みたいなことでネガティブになるくらいだったら、自分がやってみて大変なほうがいいなと思うようになりました。

僕は学生時代のほとんどはテニス部に所属していたくらいで、プレーヤーとしてサッカーとの関わりはほとんどありませんでした。

だからこそより感じるのかもしれませんが、サッカーの中から見たサッカーではなく、自分を含めて、周りでサッカーを楽しんでいる人たちのほうがたくさんいることを体感として知っています。そんな人たちをどれだけ巻き込むことができるか、そんな人たちにどれだけ貢献できるようなクラブになれるか。そのほうが、社会的な価値は大きいはずです。

“サッカーの中にいる人々”ではなく、“人々の中にあるサッカー”と、逆転したようなクラブを最初から作れば、何かに迷った時にも競技面だけではなくそちらを追求して行けるのではないか―。

国際的なスポーツであるサッカーをツールにし、社会的で普遍的な付加価値のあるものをゴールにする。

これが『鎌倉インテル』というクラブのアイデアの原点でした」

現在のJリーグクラブあるいはそこを目指しているクラブのほとんどは、競技面から生まれてきた。世界的に見てもそれが当たり前だ。

しかし、鎌倉インテルはそうではなかったのである。

パワーポイントから生まれたクラブ

「ビジョンが先にあったので、クラブの名前は揺るがないものにしなければいけない。

そこに意義がある名前…インターナショナルなサッカークラブなんだから、そのまんま『インターナショナルFC』がいいんじゃないかと。

そしてその次にホームタウンはどこなのか、という話になりました。

真っ先に思い浮かぶのは、東京などのいわゆる国際都市でした。ただ、国際都市ニアリーイコール大都市。そこにはJクラブが複数存在していて、地域リーグなどの下のカテゴリーのクラブもすでにたくさんある。実家のある横浜にいたっては、何番煎じになってしまうのか…。

とはいえ、Jクラブがない都道府県を想起してみても、自分には縁もゆかりもないところばかりでしたし、国際都市としてイメージできるところは思い浮かびませんでした。

そんなことを考えながら呑んでいた時、『自分でやればいいんじゃないか』と言っていた仲間から、鎌倉の名前が出たんです。

鎌倉インターナショナルFC。響きは良い。

ただ少し調べて分かったのは、鎌倉には陸上競技場含めて、スタジアムと呼べるところは1つもない。それどころか芝生のグラウンドすらありませんでした。それで、その場でスマホのGoogleマップを見ながら、どこがいいかな~と話をしていました。

実際はそんな感じのノリだったのですが、まぁ、当時は本当に飲み屋トークみたいなものでしたからね(笑)。天然芝が敷き詰められた鎌倉カントリークラブを『ここ良いかなぁ』とか冗談を言いながら話していたら、深沢という場所に広大な空き地があるのが目に入って。

基本的に全部飲み屋トークだったので普通はこれで終わる話だったんですが、考えれば考えるほどと言いますか、妄想をすればするほど、面白くなっていったんです」

こちらがその深沢の空き地。元々はJR東日本の車両基地があった場所で、湘南モノレール・湘南深沢駅の目の前に約31ヘクタールの広大な土地が広がっている。

「その後、たまたま縁があり、当時、鎌倉市議会議員の永田まりなさん(※現在は神奈川県議会議員)を紹介していただきました。

そこで大急ぎでパワーポイントの資料を作り、深沢の空き地を勝手に”スタジアム候補地”として持っていったところ(笑)、意外にもポジティブな意見をもらえたんです。

彼女が言ったのは、鎌倉は外から見ると魅力的で、一つにまとまった小さな17万人の都市のように見えるかもしれない。ただ、実は地域や年代で様々なコミュニティがあり、まとまりきっていない。もし、プロスポーツクラブみたいな存在があれば、“One Kamakura”になりますよね?と。

しかも僕が勝手にスタジアム候補地とした深沢には、鎌倉市役所が移転する構想がある、なんて話も聞きました」

「現在市役所がある場所は海抜が低く、津波などに襲われたら被害を受ける可能性が決して小さくない。その点、いち早く移転しなければならないんですが、移転費用を含めた財源として、商業施設と一体型の市役所にするアイデアがあり、スポーツ施設と一緒にするというアイディアもある。だから、スタジアムは面白いかもしれないと。

そこで、シンガポールの僕の家の近所にすでにある、サッカー場を中心とした多機能複合型施設『アワー・タンピネス・ハブ(Our Tampines Hub)』の動画を彼女に見せたら、ものすごく興味を持ってくれまして」

「おそらく、市長にも見せてくれたんですね。それが影響したかどうかの真実は僕も知らないのですが、そののちにこれが発表されました(笑)」

鎌倉市長の松尾崇氏は2017年11月、市長選で3度目の当選を果たした。

その際、「災害に強いまちを目指す」として深沢への市役所移転を訴えており、資料の中には『深沢にスタジアムを。』の文字とともに、前述のタンピネス・ハブの動画リンクが民間企業連携によるスタジアム一体型施設のイメージとして付けられていたのだった。

※松尾崇(まつおたかし)鎌倉市長の公式ウェブサイト、政策集『市庁舎移転を深沢に』より

しかし、この時点ではまだ鎌倉インテルは存在していない。あったのは、クラウドソーシングで世界中のデザイナーに依頼して製作されたエンブレムだけだ。

100を超えるデザインアイデアが世界中から寄せられたという。大仏FC、鶴岡八幡宮FC、鳥居FCと呼べそうな安易なデザインのものが9割9分を占めるなか、唯一違う切り口だったのがこの扇をモチーフにしたデザイン。

三方を山に囲まれた鎌倉にある七つの切通し「鎌倉七口」を扇子の骨に見立て、世界中から七つの切通しを通って、人がサッカーボール(=鎌倉)に集まり、そこで新たな付加価値を作って、今度は逆にその切通しから世界に羽ばたく姿がイメージされている。

クラウドソーシングのサービスを使って、見ず知らずのカナダ人デザイナーが創ってくれたこのエンブレムイメージが、鎌倉インテルのスタートだった。

葛藤を経て、たどり着いた結論

ただ、実際に市長の当選が決まったタイミングあたりで、いろいろなリサーチを続けながら、クラブ創設を実現しようとする四方氏の中に大きな葛藤が生まれていたという。

「自分の家はシンガポールにあり、そこに家族がいて、ビジネスもやっている。鎌倉でクラブを作るとは言ったものの、すべてを放り投げるにはいかない。そんな中途半端な姿勢でいて、誰がこのクラブ、プロジェクトを本気ととらえてくれるだろうか。そんな、後ろめたさがあるなかで本当にやりきれるのかという自問自答がありました。

そこで、僕のメンターのような存在で、現在タイに住んでいる、昔ザスパ草津の立ち上げに尽力された方に相談したところ、こう言われたんです。

『君は鎌倉から世界を相手にするんだろう。君がシンガポールに住んで、そこでビジネスをやっているわけだから意味があるんじゃないか? だからこそ、今この瞬間は何も実態がないインターナショナルFCのビジョンの説明がつくんじゃないのか? それなのに君自身が鎌倉へ行ったら、まったく説得力がなくなる』と。

自分がシンガポールにいることがこのクラブの価値になる―。そう考えられるようになったことが本当に大きかったです。

2017年10月に市長選挙があったんですが、そこから数か月はクラブが本当にやれるのかどうか、のちにGMとしてクラブの実務全般を任せることになる吉田健次とともに様々な視点から検討しました。

出た結論は、『分からない』(笑)。ただこれがポイントで、成功するかどうか分からないけど、絶対に失敗するという確証もない。

なんか可能性を感じる。じゃあ、やってみようかということで、2018年1月に鎌倉インテルを創設しました」

こうして、鎌倉に新たなサッカークラブ、鎌倉インターナショナルFCは生まれた。

「かっこよくいえば、壮大なビジョンから生まれたクラブです。本邦初のパワーポイントから生まれたクラブ、とも言えるかもしれません(笑)」

今回はあくまで創設秘話だが、「国際的なスポーツであるサッカーをツールにし、より社会的で普遍的な価値のあるものをゴールにする」鎌倉インテルというクラブを語る上で、決して避けられない話でもある。

では彼らが抱くスタジアム構想、そしてクラブが掲げる『徹頭徹尾国際化を意識したサッカークラブ』とは具体的にどういったものなのか。

こちらは後編でお届けしたい。

後編はこちら>>鎌倉インテル、夢のスタジアム構想とともに描く「鎌倉モデル」と「国際化」

なお、鎌倉インテル創設に際しては、他にもいろいろミラクルな出来事が!

創設にまつわる秘話や初年度の軌跡など、詳しいことは四方氏の著書『ビジョナリーサッカークラブのつくり方 鎌倉インターナショナルFC、創設初年度の軌跡』に書かれているので気になる方はこちらもぜひ。電子書籍版もあるぞ。

『プロサッカークラブをつくろう! ロード・トゥ・ワールド』は、セガの大人気サッカーゲーム「サカつく」の面白さをスマートフォン向けに再現。

クラブ運営や選手育成・補強、手に汗にぎる試合展開などを手軽に楽しめます。

プレイヤーは自分だけのオリジナルクラブの全権監督となり、クラブを育て、選手をスカウト。そして、育てた選手とともに世界の頂点を目指します。

■公式サイト:https://sakatsuku-rtw.sega.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/sakatsuku_com

© 株式会社ファッションニュース通信社