大手企業も注目!北大発ベンチャー けいナビ

今週のテーマは「北大発ベンチャー」。
北海道大学では、さまざまな研究が行われていて、その研究をビジネスに結び付けようという取り組みが活発化している。
北大の先端生命科学研究院にあるグン教授の研究室では、「ゲル」の研究をしている。

北大のグン・チェンピン教授。大量のタッパーにはゲルのサンプルが

グン教授のグループがこれまでに開発したゲルは、「金属より丈夫なゲル」「伸びると色が変わるゲル」「高温で固くなるゲル」など、さまざま。そして今回、2年かけて開発したのが…

水中で接着できるゲル。直径1センチのゲルを500グラムのガラス材に押し付ける実験では、5秒で強く接着し、持ち上げることができた。

しかも、何度でも繰り返し使えるという。海中で岩にくっつく二枚貝「イガイ」の成分を参考にした。開発の中心となったのは、中国からの博士研究員だ。

研究の中心となった中国からの博士研究員

博士研究員のファン・ハイロンさんは「北大でやっているゲルの研究は世界的に有名。何年も前から多くの論文を通じて北大が一番良いと思い、ここで研究したいと思った」と話す。グン教授は、「例えば生体の医療用の接着剤とか、海水中で何かものをくっつけたいとか、そういったところで使えるのではないか」と実用化に期待を寄せている。

グン教授は、これまでに開発したゲルでさまざまな企業と共同研究を進めている。今回のゲルにも、すでに複数の問い合わせが来ているという。グン教授は「企業との共同研究の一番のメリットは、研究成果が社会の役に立つということ。それが我々、研究者にとってはうれしいこと」と話す。

北大と企業の共同研究は、年々増加している

北大は、研究と企業を結び付ける取り組みを強化している。北大と企業の共同研究は年々増えていて、昨年度の総額は、21億円を超えた。背景には、企業側の事情も。競争の激化で、時間のかかる基礎研究に手が回らない企業が増えているという。さらに、北大・産学連携推進本部の寺内伊久郎本部長は「メーカーが医学・医療の分野に進出したいなど、新規事業に乗り出すときには、やはり大学に連絡がある」と話す。

北大・産学連携推進本部の寺内伊久郎本部長

企業だけではなく、大学側にもメリットが。寺内本部長は「国から国立大学への運営費交付金も年々減っている。その中で外部資金を稼ぐことを求められている。将来的な研究も含めて資金を大学としてどう回していくか」と話す。

北大は企業との共同研究を推し進める

こうした共同研究が増えていくと、その先には事業化や「ベンチャー設立」の動きも。北大はこうしたベンチャーを支援しようと、2016年に「北大発ベンチャー」を公式に認定する制度を始めた。この制度の他にも、北大には起業家たちを支える仕組みがある。

北大は大学発ベンチャーの数を増やそうと、2016年に認証制度を始めた

北海道大学の北キャンパスで中小機構が運営する、「北大ビジネス・スプリング」。北大の研究を生かして新しいビジネスを目指す、ベンチャー企業が入る施設だ。入居は原則5年までで、これまでに入居した企業は約65社に上る。

北大構内にあるインキュベーション施設「北大ビジネス・スプリング」

道や札幌市の補助金が受けられることや、周りに研究施設が集まっていることなどから人気が高く、ここ数年は満室が続く。さらに、4人の相談員がベンチャー企業をサポート。主な支援内容は、資金調達の相談や企業とのマッチング。相談員は施設に常駐しているため、予約なしでいつでも相談できる。中小機構の佐々木身智子さんは「研究員で社長をしている人は、銀行に行くのが得意ではないことがある。そういう時には銀行まで同行している」と支援の手厚さを話す。

施設が生まれて12年。入居するベンチャーにも変化が。佐々木さんによると「最初の頃はバイオ系の企業が多かったが、最近の入居は北海道らしい農業と食、AI・IoT関係が増えてきている」と話す。その一つが、「TIL」。AIを使ったロードヒーティングなどを開発している。

AIが地面の写真を見て、色や質感から、雪かどうかを判別し、ボイラーのオンオフを決める仕組みだ。約4年の実証実験では、平均で40.5%の運転時間が削減されたという。

赤い部分が、従来のロードヒーティングから削減できた稼働時間

このロードヒーティングは、AI研究の第一人者である北大の川村秀憲教授の研究室と北ガスの共同研究から始まった。研究で一定の成果が得られたため、事業化に向けて会社を設立。社員の永田さんは大学院に通う現役の「北大生」で、バイトで雇っている7人も北大生だ。

AIの第一人者、北大の川村秀憲教授

TILは、去年からビジネス・スプリングに入居。現役の北大生にとって、研究室から近いオフィスは魅力だ。月に1回程度開かれる無料の勉強会にも、よく参加するという。もちろん、経営面でもさまざまなサポートを受けている。永田さんは「友だちと言っては何だが、それくらいの感覚で相談員に接してもらっているので、ささいなことでも気軽に相談できる」と話す。

TILの社員で現役北大生の永田紘也さん。

北大発ベンチャーの一つ、メディカルフォトニクス。開発したのは、こちらの小さな機械。なんと、採血せずに血液を検査できるという。

静脈に光を当てることで「血液の濁り」が分かるという。人間は、食べたものの脂肪分が血液の濁りになる。食事の前後に血液を測ることで、濁りの度合いや、脂質を吸収する時間などを測ることができる。今月中に完成品の販売を始める予定だ。

数秒で測定ができる

メディカルフォトニクスの飯永一也社長は、元々製薬会社に勤めていた。約10年前、採血で取り出した血液に使う検査薬で、北大と共同研究を行った。本来、採血は空腹時に行うため、検査の時に血液の濁りはほとんどない。しかし、採血せずに気軽に血液を測れるようになれば、濁りのチェックが生活習慣の見直しにつながると考えた。飯永社長は研究員として北大に入り、5年前に起業した。

飯永一也社長

特許の出願などで北大の支援を受けたほか、ビジネス・スプリングでは、経営について、相談員のサポートを受けたという。飯永社長は「やりたいことをやりたいと言うまではできるが、第三者目線で『ここが足りない」とか『ここを変えよう』と自分で見えないところを指摘して引き上げてくれたことに感謝している」と話す。

こうした北大発ベンチャー。順調なようにも見えるが、実は数が伸び悩んでいるという。北大が認定した企業は、これまで23社。ここ2年の新規登録は3社に留まっている。

低金利を背景に、ベンチャーは銀行などから融資を受けやすくなっているというが、まだ心理的なハードルがあるようだ。北大・産学連携推進本部の寺内本部長は「会計とか財務とか資金集めは、大学の先生にとってハードルが高い。大手のメガバンクや監査法人、ベンチャーキャピタルから、『良いところが出てきたから金を出したい』というだけではなく『育成の支援をしていきたい』という申し出も受けている」と話す。

今後、増加に期待がかかる北大発ベンチャー。これからも注目したい。
番組の最後は鈴木ちなみさんの一言。コメントのフルバージョンはYouTubeなどのSNSで公開中。 (2020年2月15日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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