怖いのはウイルスだけではない、「新型肺炎」に便乗した“詐欺メール”の中身

保健所を騙った新型コロナウイルスの詐欺メールが発生しました。騙しというものは、人々の不安に付け入ってくるもので、やはり出てきたかという印象です。今後も様々な便乗詐欺が行われると予想されますが、どのようなものが出てくるのでしょうか。騙されないために、過去の事案から可能性のある手口を考えてみたいと思います。


保健所を騙る詐欺

知能犯である詐欺師らは、私たちの心理を読み解いたうえで騙しの一手を打ってきます。今、新型コロナウイルスによる感染が広がっている不安感に乗じて、感染対策という名目のメールを送ってきています。それゆえに騙されないためには、日頃から彼らが私たちをどんな手で罠にはめようとしてくるのかを、事前に考えておく必要があります。

今やパソコンを誰もが使うこの時代ですので、詐欺の最初の手段としてやってくるのが、ネットを通じた騙しです。まさに今回の詐欺メールがそうです。しかも、新型肺炎には未知の部分が多く、私たちもどう予防してよいのかわからないといった不安を抱えています。

その心をついて実在する保健所を騙り、文面に「感染予防対策」という言葉を載せながら、添付ファイルを開かせようとしています。IPA(情報処理推進機構)によると、これは「Emotet」(エモテット)という手法で、添付ファイルを開かせることでウイルスに感染させてパソコン上の情報を抜き取ります。この種の詐欺メールは、実際に公的機関が送った文面を利用してくるので、ついファイルを開けてしまう人も多いのです。

詐欺は不安に便乗するだけではありません。詐欺師たちがよく行うもののひとつに、私たちの知らないことにも付け入ってくるという手立てもあります。以前に、マイナンバー制度が始まる前後に、役所を騙った人物が高齢者宅を訪問して、この制度について親切に説明したうえで、手数料名目で金を騙し取るなどの事件もありました。人はわからないからこそ、見てみよう、聞いてみようとするもので、つい騙されてしまいがちになります。まさに、今回の新型コロナウイルス騒動は、詐欺を行うには格好の材料となってしまうわけです。

今回の詐欺メールは、通所・施設系障害福祉サービス事業者宛に送られていることから、狙う相手は個人というよりも、会社や福祉施設などの事業者が狙われたと思われます。もし添付ファイルを開いてウイルスに感染し、パソコン上の情報が抜き取られてしまうと、様々な詐欺が行われてしまいます。

過去には、日本航空が取引先の業者になりすました相手からの請求メールを受けて、本物だと思い、3.8億円もの金を騙しとられた事件もありました。おそらく取引先のパソコンがウイルスに感染し、情報を抜き取られて乗っ取られたのでしょうが、もしメールのパスワードなどの情報が盗まれてしまうと、取引先に成りすました偽のビジネスメールを関係先に簡単に送ることができて、金銭的被害にまで至る可能性があります。

個人が気をつけるべきこと

ただし、今後は私たち個人も新手の新型コロナウイルス詐欺に気をつけなくてはなりません。では、どんなことが想定されるのでしょうか。今回は、三つあげておきます。

一つ目は、新型コロナウイルスの感染者の増加とともに、マスクや除菌薬の不足などが叫ばれていますので、詐欺師らはさも商品の在庫があるように装った偽通販サイトを数多く立ち上げることでしょう。もし、私たちがこうした偽サイトで申し込みをしてお金を払ってしまうと、当然ですが商品は送られてきません。またクレジットカード番号を入力した場合には、その情報が抜き取られて、闇のサイトで売買されることもあります。すでにマスクの販売を装った偽通販サイトも出てきているようですので、今後もこうした事象は増えるものと思われます。

次に注意したいのは、今回のメールを見てもわかるように、保健所を騙るケースです。特に心配されるのは、保健所を騙ったアポ電(アポイント電話)です。アポ電とは詐欺を実行する前にかける情報収集の電話のことですが、もし保健所の人から高齢者宅に電話があり「お熱や咳は、ありませんか?」と体調面を聞きながら「お一人暮らしですか?」と尋ねられれば、家族状況を容易に答えてしまうことでしょう。さらに「もし病気にかかったときの治療費に不安はありませんか?」と言って、貯金額を聞きだす可能性も充分に考えられます。

三つ目は、未だに被害の多いオレオレ詐欺への便乗です。これまでも本物の息子との声の違和感を誤魔化すために「風邪をひいた」と咳をしてきたり、「インフルエンザかもしれないから、これから検査を受ける」と病院にいるフリをして電話をかけることがありました。今後、感染者が増えてくれば、新型肺炎を組み合わせてくることが、多分に考えられます。入口は新型肺炎ですが、詐欺のストーリーはこれまでと同じで「携帯電話(スマホ)が入ったカバンを、病院の待合室で盗まれた」となり、「治療代を立て替えてほしい」「カバンに会社の小切手が入っていたので、今日中にお金を工面しなければならない」と言ってくることでしょう。特に、今回の場合は「まだ陽性か陰性の結果が出ていないので、お母さんにうつすわけにはいないので」という理由をつけて、友達や会社の同僚を装った人物が金を取りに行かせやすくなります。


詐欺師らは私が今、想定した手口を覆すような方法を考え出す可能性もありますので、新型肺炎の感染予防とともに、これに便乗した詐欺への予想と警戒心をもって、個人も会社も騙されないための対策を立ててほしいと思います。

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