「慶三がいたから」バレンティンと川島の絆 背番号“禅譲”とダイヤのネックレスの秘話

ソフトバンクのウラディミール・バレンティン(左)と川島慶三【写真:福谷佑介、藤浦一都】

川島のことを「チームメートであり、それ以上に大好きな友人」とバレンティンは語る

 3年ぶりのリーグ優勝、そして4年連続日本一を狙うソフトバンクホークス。現在、宮崎市にある生目の杜運動公園で春季キャンプを行っており、例年よりも早い3月20日のシーズン開幕に向けて厳しい練習の日々を送っている。

 そのソフトバンクで今季の鍵を握る1人が新助っ人のウラディミール・バレンティン外野手だろう。ヤクルトで通算288本塁打を放ち、シーズン最多本塁打記録も更新した大砲。強力なソフトバンクの選手層に、さらに厚みをもたらす存在となるだろう。

 新天地でのキャンプを送っているバレンティン。新助っ人が早くチームに馴染めるようにとサポートしているのが、川島慶三内野手である。2008年からトレードでソフトバンクに移籍する2014年途中までヤクルトに在籍していた川島。バレンティンとはチームメートで、そして良く食事にも出かける友人だった。

 バレンティンにとっての川島はかけがえのない存在である。来日してからずっと続いている友人関係。キャンプでのここまでの2週間では新しいチームメートとの間に入って仲を深めさせ、時にいじったりしてチームの輪に溶け込ませようとしている。

 バレンティンは川島のことを「チームメートであり、それ以上に大好きな友人。彼がいるからこそ、今、この環境も楽しく練習に取り組めるし、自分もチームの一員になれたのは彼のおかげでもある。彼のすべての部分をすべて尊敬している」と絶大な信頼を寄せ、川島は「ストレス感じないようにしてあげないとね。僕が1番できるかなと思うし、アイツのためにもなるし、それがチームのためにもなるから、ただやっているだけ」と言った。

背番号「4」を譲ってもらったお礼に数百万円のネックレスをサプライズプレゼント

 バレンティンが今季、背負う背番号「4」は昨季まで川島が背負っていたものだ。ソフトバンクへの加入が決まると、バレンティンの元に川島からLINEでメッセージが送られてきた。「自分がホークスに来ることが決まった時に『4番はココ(バレンティンの愛称)に似合う』ということで彼の方から言われて譲ってもらった」。バレンティンはその時のことを回顧した。

 川島がソフトバンクに移籍して以来、2人は約5年半ぶりに再びチームメートになることが決まった。川島はバレンティンのために自ら、バレンティンがヤクルトで9年間背負っていた背番号「4」を譲ることを決めた。そして、自身は故郷の長崎・佐世保市にある九十九島になぞらえて「99」を選んだ。

「4番が一番似合うと言ってくれて、譲ってくれるとなった時は嬉しかったし、僕のことをリスペクトしてくれているんだな、と感じたよ」。背番号を譲り受けたバレンティンは川島に対しての感謝の思いを隠さない。「ホークスへの入団が決まった時、4番があったらいいな、とは思っていたんだけどね。それを1番の仲のいい友人が着けていて、譲ってもらえたというのは幸運だった」。

 バレンティンがソフトバンクへの移籍を決めた要因の1つには、川島の存在があった。川島が移籍した後も食事に行くなど交流を続けていた2人。会話の中では、ソフトバンクのチーム状況や環境面なども話題にあがったという。

「『どんなチーム?』と聞いたら『すごくいいチームだよ』と評判が良かった。良いことを言っていたので、そういう面で色々聞いたよ。それでホークスに関心を持った部分もあるね。そして、常に勝つチーム、強いチームだし『本当にあなたが必要だよ』というのが1番伝わった球団だった。慶三がいたというのは絶対だったので大きかったし、さっきも言ったようにチームから必要だというのが1番伝わったのが気持ち良かった」

バレンティンも敬意を抱く川島の人柄「みんながいいように環境を作るのがチームメート」

 バレンティンは来日直後、川島と食事をした際にこっそりプレゼントを用意していた。川島の新しい背番号である「99」がゴールドと無数のダイヤモンドで象られたネックレス。数百万円はするというサプライズプレゼントだった。

「番号を譲ってくれたというのは大きいことだから、自分からプレゼントしたんだ。自分としては物で返したけれど、彼に対してはそれ以上のものだったと思う。値段じゃないんだ。彼が背負っていた番号で、それを譲ってくれたのが凄く嬉しかったんだ」

 そのネックレスを川島はキャンプの練習中にも身に着けている。まさかのサプライズに「嬉しかったですよ。あいつも僕のこと考えてくれてのことだと思う。驚きましたし、嬉しかった」と笑う。そこには2人の固い絆が感じられる。そして、川島はバレンティンを「みんなに影響があるような選手。キャンプで見ていてもフルメニューをしっかりやるじゃないですか。日本にしっかり馴染んで、長く出来るっていうのは日本に慣れようとして日本の文化の通りにやるし、人間的にも素晴らしい」と絶賛する。

 ソフトバンクというチームの中でも川島は松田宣浩とともにチームを支えるムードメーカーであり、常勝を誇るソフトバンクで不可欠な存在だ。決して出場機会が多いわけではない。にもかかわらず、縁の下の力持ちとしてチームのために動く。その役回りに対しても「野球人だからね、それが野球人。自分がいいとか、思っていたらそういうことはしない。みんながいいように環境を作るのがチームメートだから」。サラリと言ってのけるところが、また格好いいではないか。

 今季のソフトバンクの新戦力となるバレンティンと、チームを支える屋台骨の川島慶三。固い絆で結ばれた2人が、再びチームメートとなり、チャンピオンを目指して共に戦う。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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