クローン生物のゲノムが遺伝的多様性を回復する仕組みを北海道大学が解明

半クローン生殖するアイナメ属の野外雑種が、組み換え世代を取り入れることでゲノムをリフレッシュし、遺伝的多様性を獲得しながら系統寿命を延長する仕組みを、北海道大学の研究グループが明らかにした。

北海道を代表する磯魚であるアイナメ属の中で、スジアイナメとクジメのゲノムを持つ雑種の生息が最近確認された。この雑種はすべて雌で、受精して成体になるまでは父種(クジメ)ゲノムも使うが、卵形成過程になると消失し、母種(スジアイナメ)ゲノムだけがクローン的に子に受け継がれる。

このように母種由来のゲノムだけを子に伝える半クローンやクローン生物には、悪性変異の蓄積による自滅や、多様性の欠如による全滅のリスクがある。しかし、実際の半クローン生物は少なくとも数十万世代存続しているといい、何らかのゲノムを更新するメカニズムの存在が示唆されてきた。

本研究では、スジアイナメとクジメのなわばりから採集した卵を用いて遺伝様式を調べた結果、雑種が両方の親種とほぼ同率で交配していることを突き止めた。父種(クジメ)との交配では半クローン生殖となるが、母種(スジアイナメ)と交配した場合、スジアイナメゲノムが2セットになり、通常の減数分裂をする「組み換え世代」(有性生殖世代)に移行する。スジアイナメとクジメは強固な生殖隔離機構を持ち滅多に交雑しないため、組み換え世代で世代交代している間に半クローンゲノムはリフレッシュされる。有害変異の削減と遺伝的多様性を回復したのち、数百年、数千年という地史的スケールの中で、火山爆発や地球温暖化などを要因とした偶発的な交雑で半クローン世代が再開される。

実際に、半クローン雑種には複数のハプロタイプが観察されていることから、再交雑は複数回起こったとみられる。本研究は、半クローン生物が組み換え世代を持つことでクローンゲノムをリセットしながら永続する仕組みを明らかにした世界初の成果といえる。

論文情報:

【Evolution】Unisexual hybrids break through an evolutionary dead end by two-way backcrossing

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