筋肉訴求の「鶏ムネ肉カップスープ」をポッカが売り出す事情

冬の寒い時期に特に売れる、カップ入りスープ。本格的な味わいのものや野菜を手軽に摂取できるといった特徴の商品が、数多く販売されています。

しかし、サッポロホールディングス傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジが来月から発売するのは、こうした商品とは毛色が少し異なるカップ入りスープ。鶏ムネ肉がゴロッと入っており、タンパク質をしっかり摂取できるのが売りです。

定番とはかけ離れた商品を出す裏側には、どのような狙いがあるのでしょうか。2月14日に開催された、同社のスープ事業方針説明会の内容を深掘りします。


1分で湯戻りする鶏ムネ肉

ポッカサッポロが3月2日に発売する「きちんとチキン」シリーズ。独自技術で製造した鶏ムネ肉を使用したカップ入りスープで、角砂糖ほどの大きさの鶏ムネ肉がごろっと入っています。ラインナップは「鶏だし白湯スープ」と「鶏だし中華スープ」の2種類です。

特徴はカップに熱湯を注いでから完成するまでの調理時間の短さ。成型肉は使用せず、鶏ムネ肉を工場でカットしており、漬け込み液で肉をやわらかくした後、フリーズドライ製法で乾燥させています。特許出願中のこの技術により、大きなサイズでも湯戻り1分、かつ、柔らかい食感を実現したといいます。

栄養面は「鶏だし白湯スープ」が90キロカロリー、「鶏だし中華スープ」は79キロカロリーに抑えた一方で、タンパク質はどちらも7グラム含まれています。

試食用に提供された商品を食べてみると、1分で確かに鶏肉は柔らかくほぐれ、肉らしい食感とうま味もあります。通常のカップ入りスープ以上の食べ応えが感じられました。

タンパク質はライト層にも拡大

「きちんとチキン」シリーズの開発背景について、同社の黒柳伸治スープ食品事業部長は消費者の健康意識や体作りへの考え方の変化を理由に挙げます。

2013年頃の「ロングブレスダイエット」などが流行していた時代までは、食事面では「なるべく摂取しないことでスタイルを維持する」という考え方が主流だったといいます。

ところが、2018年頃から「ボディデザイン」という言葉が登場するなど、「積極的にタンパク質を取ることでスタイルをつくる」という考えに変化し、プロテイン市場も拡大傾向にあるようです。

黒柳事業部長は「タンパク質の摂取は、運動ヘビー層の筋肉増強だけでなく、日々の健康のため、ダイエットのためなど、ライト層にも広がっている」と、分析します。

「OFF系」から「ON系スープ」へ

そこで同商品は、従来の摂取しないことでスタイルを維持するはるさめスープなどの「OFF系」に対する新機軸として、積極的に摂取することでスタイルをつくる「ON系スープ」と位置づけました。

希望小売価格は200円(税抜)と、従来のカップ入りスープよりも高価格ですが、「価格に見合った価値が提案できる」といいます。

筋肉芸人のなかやまきんに君さんを起用した、オフィスでできる簡単な筋トレを紹介する動画広告を展開予定。短時間でタンパク質を効率的に摂取したいユーザー層にアピールします。

ポッカサッポロが新たなスープの開発に力を入れるもう1つの背景に、地球環境の変化があります。気候の影響を大きく受けるというスープ市場は、気温と売り上げに相関関係があり、暖冬だった一昨年と今年は苦戦しました。

暖冬を当たり前のものとして、気温変化に左右されず売り上げに貢献する商品として期待されているのが、「きちんとチキン」シリーズというわけです。はたして、筋トレブームに乗って市場に定着させることはできるでしょうか。

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