聖火の梅

 トーチを手にしたランナーたちを見ると、スポーツの祭典の幕開けがぐっと近くに思えてくる。東京五輪の聖火リレーのリハーサルが先ごろ都内であった▲春もまた、聖火とともに近づくらしい。詩人の杉山平一さんに「三月」と題する一編がある。〈走ってくる春の聖火ランナーの/かかげる聖火の白い梅が/チラチラ見えてきた〉。梅一輪はトーチの火だという▲聖火は例年より早く、列島を北へと向かっている。長崎市に住む近親者の家の庭では紅梅がすでに満開で、例年より20日以上も早いと聞いた▲今年の早春のランナーはとりわけ急ぎ足だが、きょうまでは「一時停止」らしい。みぞれと呼ぶべきか、きのう本県では観測史上、最も遅い初雪が降った。きょうも早いうちは雪の所も多いとみられる。この時季、満開の梅が異例とすれば、咲き誇る梅に雪が降るのも異例だろう▲梅が咲く頃は、若い人たちが冬に耐え、花咲く日を待つ季節でもある。追い込みに入った受験生は今まさに“厳冬”の中にいる▲「三月」の詩は、早春に夜空を飾る星に祈りをささげた、若くて苦しかった頃を回想し、こう結ばれる。〈トンネルは必ず抜けるものだ/待つものは必ずくるのだ/来たのかもしれない/郵便箱にポトリと音がする〉。厳冬の君へ、贈る言葉のようでもある。(徹)

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