認知症男性らによるフォークデュオ、CD制作 「楽しく生きる」を歌に

「CDタイトルは『ミンナオヤジです』」などとユーモアを交え演奏を披露した「ヒデ2」の近藤さん(左)、稲田さん(右)と、内門さん=藤沢市内

 若年性認知症を患う神奈川県逗子市の男性らが結成したフォークデュオが、認知症の母を介護する藤沢市の女性シンガー・ソングライターらとCDアルバムを作った。タイトルは『ミンナオナジ』。「みんな違うけれど同じ人間。お互いを受け入れ、楽しく生きていけたら」。アルバムにはそんな思いがいっぱい詰まり、音楽を通じて認知症への理解や支援の輪を広げようとしている。

 「今年はCDデビューしました」。昨年のクリスマスの夜、藤沢市内の飲食店で開かれた認知症をテーマに交流する会。集まった20人ほどを前に、若年性アルツハイマー型認知症の近藤英男さん(67)=逗子市=と、かまくら認知症ネットワーク代表理事の稲田秀樹さん(58)=鎌倉市=によるデュオ「ヒデ2」が6曲を歌い上げると、会場は笑顔と拍手に包まれた。

 理化学機器メーカーの営業マンだった10年前、「簡単な作業にも時間がかかるようになる異変を感じた」といい、認知症と診断された近藤さん。営業を外れて倉庫作業の担当に代わるなどし、「最初は何で自分が…とがくぜんとした」という。定年退職後に稲田さんが開く患者らの交流会に参加し、ともにかつての趣味がギターだった2人でデュオを結成することになってから、生活が変わった。「音楽を通じてたくさんの人に出会えた」。100回以上のライブで、認知症について知ってもらうメッセージを込めて歌ってきた。

 CD制作は近藤さんの主治医で、日本認知症予防学会専門医も務める内門大丈さん(49)=藤沢市=らが企画。内門さんが開いた交流会で、認知症の母を介護しながら音楽活動を続けるシンガー・ソングライターさとうさちこさん(47)=藤沢市=がライブを行ったことをきっかけに、ヒデ2も制作に加わった。

 昨夏にできたアルバムの5曲をさとうさんが作詞作曲し、『君の光』では、さとうさんが「もう歩けないと思った でも立ち上がろうと思った 強くなりたいと思った 君がそこにいたから」と伸びやかな歌声を響かせている。ヒデ2は他2曲の収録に参加した。

 さとうさんも認知症の母が変化する様子に戸惑ったこともあるというが、母と暮らし、症状について学ぶうちに「みんな違う人間。だからこそ相手の立場に立って考え、理解したい」と強く思うようになった。「今大変なことも、いつか良い経験になる。そんなメッセージを伝え、少しでも心が軽くなるような時間を歌で届けられたら」とさとうさん。近藤さんも「認知症でうまくいかないこともあるけど、悲しいことは捨て、どう楽しむかが大事。CDを手に取った人に楽しさや、元気を伝えられたら」と話している。

 CD(税込2千円)はこれまでに約400枚を販売し、売り上げの一部を認知症支援団体に寄付している。問い合わせはメール(uh.style2019@gmail.com)で。

 ◆若年性認知症 65歳未満で発症した認知症。脳血管疾患やアルツハイマー病などが原因で脳の細胞が死んだり働きが悪くなったりし、記憶力や判断力が低下、日常生活に支障がある状態をいう。

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