聖母子像 半世紀ぶり“里帰り”に信徒ら歓迎 五島・久賀島

かつて潜伏キリシタンの子孫が暮らした五島市久賀島の細石流(ざざれ)集落から、1970年ごろまでに島外へ持ち出された「聖母子像」が20日、半世紀ぶりに“里帰り”した。信徒らは手を合わせて祈りをささげた=久賀島潜伏キリシタン資料館

 かつて潜伏キリシタンの子孫が暮らした五島市久賀島の細石流(ざざれ)集落から、1970年ごろまでに島外へ持ち出された「聖母子像」が20日、久賀島に戻ってきた。戦後、同集落は急激な過疎化が進み、信徒は国内外に離散。像は、信徒の一人が廃堂となった細石流教会から運び出し、移住先の北九州市にある教会で保管していた。島の信徒らは半世紀ぶりに“里帰り”した像を見詰め、聖歌と祈りをささげた。
 約300人が暮らす久賀島は五島市の二次離島で、島全体が世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産になっている。
 島北部の細石流集落には、禁教期に長崎・外海の潜伏キリシタンが移住。1921年には信徒が細石流教会を建設した。しかし、へき地だけに生活は立ちゆかず、信徒は70年ごろまでに長崎本土や福岡、南米などに移住。その際、廃堂となった教会堂の聖像や装飾具は移住先に持ち出された。今回の聖母子像も、男性信徒(故人)が移住した北九州市の「湯川教会」に預けていた。子どものころ細石流集落で暮らしたシスター鳥巣孝子さん(75)=東京都=がこのことを知り、久賀島に戻してあげたいと教会に相談。里帰りが実現した。
 聖母子像は聖母マリアが幼いイエス・キリストを抱いた姿で高さは約1メートル。素材や製造年は不明だが、鳥巣さんは「細石流教会の祭壇の右側に飾られていた。フランス製と聞いたことがある」と話す。今回安置するのは、久賀島の潜伏キリシタンの子孫らが2018年12月に開館した「久賀島潜伏キリシタン資料館」。同館は全国各地に離散した元島民らが「島に返したい」と寄贈した装飾品や資料を展示している。
 20日は、湯川教会の信徒で五島市出身の濱田政一さん(72)=北九州市=ら2人が聖母子像を軽トラックに載せて船で来島。かつて細石流教会にあった聖ヨゼフ像と聖アンナ像の隣に安置した。久賀島の信徒らは「優しいお顔」「よく無事だった」と喜び、手を合わせて聖歌「アベ・マリア」をささげた。
 来島した鳥巣さんは「先祖も天国で喜んでいるはず」、濱田さんは「ようやく帰るべき所に帰ってきた」と目を潤ませた。

半世紀ぶりに“里帰り”した聖母子像を安置する信徒=久賀島潜伏キリシタン資料館

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