心愛さん事件裁判に

 10歳の少女は、自分に宛てた手紙でつづっていた。「未来のあなたを見たいです」と。そして「あきらめないで下さい」とも。つらい境遇だったはずなのに、学習目標を立て健気に生きようとしていた▲千葉県野田市の小学4年、栗原心愛さんは、学校でその手紙を書いた3カ月後の2019年1月、父親の虐待によって命を絶たれた。児童相談所が一時保護したこともあったが、市教委や児相などの不手際が重なり守り通せなかった▲この事件を受け、親による体罰禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法などが成立。今年4月の施行に向け、厚生労働省の検討会は、どのような行為が体罰に当たるかを示した指針をまとめた▲虐待する親は「しつけ」と称して暴力的な言動を激化させる例が多い。何がきっかけでそうした言動に走るのか、親の心の底を見極めなければ根本的な解決にはつながるまい▲傷害致死などの罪に問われた心愛さんの父親の裁判員裁判が千葉地裁で始まった。父親は「しつけの範囲を超え、後悔している」とし、「娘のためにできることは事件に向き合い事実を明らかにすること」と述べた▲裁判を通じて虐待を繰り返した父親の心の動きがつまびらかにされることを期待する。そこから社会は虐待根絶の手掛かりを見いだしていかなければならない。(久)

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